チェンマイへ行くことにした。
先日、大阪から知人が来て、バンコクの海軍クラブで夕食を一緒にとったのだけれど、彼から8月20日ごろチェンマイに来ないかと言われる。
自営業だからか、彼は3週間ほどの夏休みだそうだ。
チェンマイにはしばらく行っていない。
前回チェンマイへ行ったのはいつだったのだろうか。
冗談半分に聞き流していたのだが、何日かしてから、「行ってもいいかな」と思うようになり、先週にはもう行く気になっていた。
最近はタイでもLCCブームで、タイの国内線などずいぶんと安いものが出回っている。
会社のスタッフたちも安さに浮かれて、休みの度にあちこちへ出かけているようだ。
しかし、私は天邪鬼な性格なので、皆が右を向いてたら、一人左を向いてみたくなる。
先週末に鉄道とバスの切符を買った。
行きは鉄道で、帰りはバス。
金曜の夜汽車に乗って、土曜の昼にチェンマイ到着。
寝台はとれたが、希望の下段寝台ではなく、上段。
上段だと、日本の寝台車のような小窓もないので、どこを走っているのか、どこに停車しているのか、まったく確認ができないのでつまらない。
さて、8月18日、仕事を終えて、8時過ぎに帰宅。
急いで、旅支度と夕食をとる。
100パイプと言うタイで一般的なスコッチを寝酒用にペットボトルに詰める。
時刻は9時を回る。
明日の朝食用におにぎりも作り始めてしまい、アパートを出たのは、結局9時半となる。
このままバンコクの駅に向かったのでは、夜10時発の汽車に乗り遅れそうだし、またチェンマイからの帰りのバスは、午前3時過ぎにバンコクへ到着することになっているが、到着した後アパートまでタクシーに乗るのももったいない気がする。
そこで一計、帰りのバスが到着するバスターミナルまでバイクを飛ばし、ターミナルへバイクを置いたまま、チェンマイへ向かう。
バスターミナルから少し先にバンケンと言う鉄道駅があり、そこから今夜の汽車に乗れば、都合が良さそうだ。
雨期なので雨が心配だったが、幸い雨に濡れることもなく、10時にバスターミナルへ到着し、バイクを置かせてもらう。
そこから市内バスに乗り換えてバンケンへ。
ところが乗り込んだ29番の市内バス、タイではよくあることなのだが、バンケンのバス停が近づき、降車ボタンを押しても、委細構わず広い道路の中央より車線をガンガン飛ばしている。
バンケンなどあっさり通過されてしまう。
降車ボタンを乱打したら、500メートルほど行き過ぎたところで降ろされた。
それでも、バンケンの駅に着いたら、チェンマイ行きの汽車が入ってくるにはまだ少し時間があるらしい。
駅のベンチにはこれから汽車に乗ろうという人が何人も座っている。
私はカバンからウイスキーを詰めたペットボトルを取り出してチビチビやり始める。
チビチビだけれど、ピッチは速い。
何年か前から、タイの汽車の中での飲酒が全面的に禁止されてしまった。
タイの鉄道の魅力は、食堂車から取り寄せた料理や、駅ごとにホームの物売りからツマミを仕入れて、ビールやウイスキーを楽しむことであったが、現在ではそれができなくなってしまった。
[夜のバンケン駅、薄暗くてなんだか何十年か昔の東北本線の駅みたいだ]
[駅の待合所で寝ている犬、バンケン駅の番犬と言ってもダジャレにもならないか]
蚊に刺されるのにうんざりしたころ、チェンマイ行きの夜汽車はやって来た。
指定された車両は11号車。
乗り込んで、13番の寝台へもぐりこむ。
金曜日の13番かぁ。
寝台についている読書灯はスイッチが入らなかった。
もっとも、わが上段寝台は天井に近く、すぐ真横が車内照明の蛍光灯。
読書灯など必要としないくらい明るい。
読んだ本は宮脇俊三の「シベリア鉄道9400キロ」。
30年以上も前の鉄道旅行記。
著者はシベリア鉄道で9400キロを7日間かけて乗り通すわけだが、こちらはチェンマイまでで800キロほどを14時間かかる。
[チェンマイ行きの急行列車 ここから乗り込む人も何人もいるようだ]
[エアコンなしの二等寝台車、車内の様子]
停車した駅のホームのアナウンスからアユタヤとわかる。
順調に北へ向かっているらしい。
午前零時を回り、日付も変わる。
シベリア鉄道は5日目に入ったが、そろそろ寝ようと思う。
深夜の駅に停車、気配はロッブリーらしい。
しかし、けしからんことに車内の照明が明るすぎる。
読書灯ならスイッチで消せるが、真横にある車内照明の蛍光灯は消すこともできない。
寝台のカーテンを引いた程度では、たいして暗くならないし、それにカーテンを閉めると天井からぶら下がっている扇風機の風が入らない。
この車両はエアコンなしの旧型車である。
明るいとなかなか熟睡できない。
また、駅に停車するごとに、ここはどこだろうかと気になって、ホームのアナウンスを聞き取ろうとするからますます寝付けない。
どこの駅かわかったところで、外を確認できる窓があるわけでなし、どうでもよいのに、そんな性分と言うか、夜行列車向きではない思えてくる。
[上段のベッドはこんな感じ、古い日本製だがタイの規格は日本より小さいのでベッドも狭い]
スコタイへの玄関口、ピサヌロークを過ぎたときにはたぶん寝ていたのだろう。
気が付いたら朝5時過ぎになっていた。
目は覚めたが、まだ寝台の中でじっとしている。
昨晩ストレートで飲んだスコッチのためか、なんだか胃が少しチリチリ、ムカムカする。
[時刻表と照らし合わせなくてもスマートフォンで現在地が確認できることに気付いた]
ウータラジットで私の寝台の下の人、つまり下段の人が下車したらしい。
ウータラジット出身のタイ人の友人がいる。
たまにビールを飲み交わしたりするが、一緒にウータラジットの山に登ろうと誘われるが、いまだに実現していない。
そろそろ、汽車は北部の山岳部に入ってきたわけだ。
次のシラアットで下段の寝台がシートに組みなおされたので、私は寝台から抜け出して、下のシートに腰かける。
雨でも降ったのか、しっとりとした朝の空気が気持ちいい。
もともとエアコンなどあまり好きではないし、汽車の窓を開けて、風を楽しむことにロマンスを感じるのだけれど、それは想像の世界で、実際のところタイの汽車に乗っていて、窓を開けてもロマンチックなところなど全くない。
暑さは風が吹き込むことで我慢できるが、窓から風と共に吹き込んでくる埃は、うんざりしてしまう。
土埃に、車輪とレールがすれて発生する鉄粉、最悪なのはポットントイレから風圧で飛んでくる飛沫。
それでもエアコンなしを選んでしまうのは、安いこともあるが、エアコン付きだと、窓は黒くスモークが入り、埃もこびりついて、窓から外の景色がよく見えないこと。
その点で、エアコンなしだと、仮に窓を閉めていても、窓ガラスは透明なので、視界が良い。
そして、この朝は雨上がりと言うことで、窓を開けても不愉快な埃は入ってこない。
[深い緑の山の中を蛇のようにくねりながら汽車は進む]
山の中を走る。緑が新鮮で、山の斜面には朝霧のように、薄く雲が残っていたりする。
峠を一つ越えて、デンチャイに到着。
[隣のホームに係留されてる車両の中で休憩している職員がいた]
デンチャイを過ぎると、茶色い川が線路により沿ってきた。
濁流のように、川沿いの木々を飲み込んだ暴れ川になっている。
あんまり気にしていなかったけれど、タイ北部では先日まで各地で大雨による水害が発生していたそうだから、その影響かもしれない。
川には堤防こそないが、洪水を引き起こしているようでもない。
ただ、茶色い水があちこちでこぶを作って隆起し、勢いよく流れている。
タイの川とは思えないような様相である。
[線路に沿って茶色い川が流れている]
[川が見えなくなったと思ったら再び山の中へ]
窓の外の景色は、茶色い川が激しく流れているけれど、汽車の中はのんびりしたものである。
私の隣の車両は食堂車になっていて、ボーイが昼食の注文を取りに通路を行き来したり、インスタントコーヒーを売り歩いたりしている。
私もそろそろ朝食と、前夜作っておいたおにぎりを取り出して食べ始める。
おかずのないおにぎりだけなので、ものの十分もかからずに食べ終えてしまう。
もう少し何か食べたいような気もするが、先日受けた健康診断での結果のこともあり、腹八分目を旨とする。
[朝食用に持ち込んだおにぎり]
二つ目の峠を越えて、ランバーンの盆地へ降りる。
メーモと言う駅の手前で、盛大に煙を噴き上げる巨大な煙突が遠くに見える。
だぶんメーモの石炭火力発電所であろう。
公害問題があると聞いているけど、あれほど盛大に煙を吐いていたら、公害問題も出てくるだろう。
鉄道路線からはだいぶ離れているよう見えるけれど、発電所の燃料である石炭はどのように運んでするのだろうか?
あれほど大きな発電所で使う石炭をトラックで運んでいたら大変だろう。
[早朝のチェンマイを出発してバンコクへ向かう上り急行列車と行き交う]
もうほとんどの乗客が起き出して、寝台がシートに組みなおされている。
ほぼ半分くらいの乗客が下りてしまっているので、車内も閑散とし出しているし、乗客たちもそろそろ退屈し始めているようだ。
残っている乗客の半分以上は西洋人で、夏休みだからか家族連れもいる。
私は車窓を眺めていればちっとも退屈しない。
ランパーンは10時過ぎに出発し、これから最後の峠越えとなる。
以前は停車駅ごとに、駅のホームで物売りが行きかっていたのだが、これまでのところホームでそのような物売りの姿をほとんど見かけていない。
タイの鉄道も、もう窓越しに食べ物などを売り買いする時代ではなくなったのだろうか?
エアコン付きの車両も増えてきているとは言え、まだまだ圧倒的に窓の開く車両ばかりだけれど、駅売りのちょっと高い食べ物を買えるような人が乗る2等車は窓の開かないタイプも増えたのだろうし、そもそもタイ人たちが汽車に乗らなくなっているから、ローカルフードをホームで売り歩いても商売にならないのかもしれない。
ランパーンを出てしばらくしたら居眠りをしてしまったらしい。
気が付いたらば、車窓の外は真っ暗で、どうやらクンタントンネルの中らしい。
日本のトンネルと比較したら大して長いわけではないけれどタイでは一番長いトンネルのはず。
汽車のスピードも遅いので、なかなかトンネルから抜けない。
ディーゼル機関車から吐き出される油煙が窓から車内に充満してくるので窓を閉める。
トンネルを抜けると雨が降っていた。
生憎の天気である。
雨のチェンマイでは自由に歩き回るのに不便である。
デパートやカフェに入るような趣味もない。
クンタン駅で列車交換のためしばらく停車し、少し遅れが出ている。
雨のチェンマイでは、何もやることがないので、いっそ大幅に遅れて、このまま車窓から雨の景色でも眺めさせてほしいくらいだ。
[タイで最も標高の高い駅クンタン駅も雨にぬれていた]
[スカイプでアパートで留守番しているネコの様子をチェック これで通話もできたらよいのだが、呼びかけても耳が動くだけで返答なし]
クンタンを出たらばまた寝てしまい、気が付いたらチェンマイの一つ手前のランプーンに来ていた。
もう少しで終点だよと車掌が車内を回っている。
チェンマイに近づいていることが車窓からもわかる。
以前は延々とラムヤイ畑が続いていたが、今は新しい建物が増えている。
それにリゾート風の建築物が目立つ。
[まもなくチェンマイ、長い汽車旅もそろそろ終点 途中で降りたのか空席も目立つ]
チェンマイ到着は少し遅れて12時20分となる。
幸いなことにチェンマイでは雨は降っていなかった。
チェンマイ駅構内では以前と同様にゲストハウスの客引きやトゥクトゥク、ソンテウの客引きが待ち構えていた。
しかし、私には誰も声をかけてこない。
外見からも客としてみなされていないようだ。
[昔とあまり変わらないチェンマイ駅の駅頭風景]
今晩の宿は前回、二年前に宿泊したことのあるトウキョウ・ベンダー・ホテル、略して「東京ホテル」。
駅からはちょっと距離もあるが、歩いていく。
車代を節約したい気持ちもあるし、それに早く宿に着いても、夕方まで何も予定はなく、時間をもてあましそうである。
駅前からぶらぶらと歩き始める。
駅正面で一等地であるはずだが、昔あったレイルウェイホテルの跡地はいまだに再開発されておらず、空き地のままらしい。
風水的に見て、どん詰まりのチェンマイ駅の正面と言うのはあまり立地として良くないらしいと言うことも関係しているのだろうか?
メーピン川の手前、江桂泉で肉まんを買う。
昔からあるチェンマイの有名店で、「江桂泉餅家」と中国名の屋号を持っているが、店の看板にはタイ語しかない。
それも"ウィクンパニット"と言う名前になっている。
テイクアウト専門の店で、車で買い付けに来る人が多いが、すぐ隣にも似たような中国系の店があり、そちらは閑散としているが店内で食事ができる店になっている。
この江桂泉の肉まんは、とにかく巨大で、大と小の二種類があるが、小でも普通の肉まんよりも大きいし、大は小の二倍くらい大きい。
さらに肉まんの具がぎっちりと入っているので、私でも大をひとつ食べれば、ランチの一食分になる。
肉まんの他にも肉粽(バーチャン)やシュウマイ(カノムチープ)などもある。
[写真に写っているのは肉まんの"小" 大はこの倍はあるサイズ]
メーピン川も茶色の濁流となっていて水量が多い。
この茶色い流れが下っていくとバンコクのチェオプラヤ川になるのだが、そのうちチャオプラヤも水位が上がってくるのだろうか?
[メーピン川、水位が上がっている感じ]
ターペー通りに入り、レムトーンと言うテーラーでワイシャツを仕立てようかと思い立ち寄ってみる。
前回スーツとシャツを注文してから5年くらいになる。
つまりワイシャツも5年間着続けているわけで、そろそろクタビレてきている。
半袖のワイシャツだが、ここのは生地も仕立ても良いので気に入っている。
半袖は一着750バーツとのことだったが、二着で1,500バーツでも良いとのことだったが、仕立てには一週間かかると言われて断念する。
バンコクへ郵送してもらえば良いだけかもしれないが、直しを依頼するとしたら面倒なことになってしまう。
観光客相手のテーラーだとどこも24時間で仕立てるが、ここはシャツでも時間がかかるらしい。
ターペー門の前のあるベンチに腰掛けて先ほど買った肉まんを食べる。
ターペー門の前には中国人観光客がたくさん集まっている。
たくさん集まっているが団体客と言うわけではなく、個人の観光客が集まってきているようだ。
鳩もたくさんいる。
鳩は中国人観光客から餌をもらったり、子供たちに追いかけられたりしている。
中国人観光客は記念撮影に余念がない。
中国では鳩が珍しいのだろうか?
[ターペー門前には中国人観光客が鳩と遊んでいた]
ターペー門から城内へ入る。
城内も中国人観光客でいっぱいである。
中国の人たちからすると、この城内の旧市街はさしづめ「清邁老街」とでも言ったところだろうか。
かつての情緒ある旧市街が、ありきたりの観光地に成り下がってしまっている。
しっとりと落ち着いた古都だったチェンマイがずいぶんと安っぽい観光地になってしまった感がある。
中国からの観光客たちもまたずいぶんと変わった。
以前は田舎者丸出しで、とんでもなく野暮ったかったけれど、このチェンマイで見かける中国人観光客たちはかなり垢抜けており、日本の若い人たちとそっくりになってきている。
東京ホテルこと、トウキョウベンダーホテルでチェックインを済ませ、5階の部屋に入る。
一人なのでダブルベッドの部屋希望と予約時にメッセージを入力していたつもりであったが、どうもうまく伝わっておらずツインベッドの部屋となっていた。
一応、大きくはないが窓があり、ドイステープ側を向いているが、目の前にそびえて見えるのはカドスアンケウショッピングセンターの巨大な建物の壁面。
たぶんデザイン的にはチェンマイの城壁などをイメージした建物で、崩れかかったレンガ風の演出をしているが、メンテナンスが悪いからか、本来のデザイン目的とは関係なく、ただ単なる崩れかかった巨大な廃屋のような印象を与える。
部屋の中はまずまず綺麗にしてあり、印象的には悪くない。
しかし、大きなベッドの方が良いのでレセプションへ下りて、部屋の交換を願い出てみる。
その願いでもむなしく、ダブルベッドの部屋に空はないとのこと。
[ホテル5階の突き当りから外を眺める]
前回滞在した時に、このホテルの屋上が朝食会場となっていた。
朝食の内容はお粗末ではあったが、屋上からの眺めはとてもよかった。
今回の宿泊料金には朝食が含まれていないが、別料金を払っても屋上で朝食を食べたいと思ったいたのだが、現在屋上では朝食の提供をしていないという。
朝食だけでなく、ホテル館内に飲食施設が一切営業していないらしい。
どうしたのだろうか?
[ホテルのレセプションには日本のオブジェが雑然と飾られている]
プールは使えるとのことだったので、プールで泳ぐことにした。
その大きくないプールもメンテナンスが良くないのか、それともチェンマイの水自体がどこもそうなのかわからないが、プールの水が少し濁っている。
汚れて濁っているのかも知れず、泳ぐときは水に顔を浸けないようにカエル泳ぎでぐるぐるとプールの中を泳いで回る。
泳ぎ疲れてぐったりするくらい泳ぎまわってシャワーを浴びる。
レインシャワー風のシャワーになっているが、水はチョロチョロとしか出てこなかった。
[仏壇もオブシェらしいが、位牌があるべきところに関羽さんの像があった]
ラチャマンカラ通りを歩いてみる。
むかしチェンマイに住んでいたころ、このラチャマンカラ通りにはお気に入りのカオマンガイ(海南鶏飯)の店があった。
とても繁盛している店で、しばしば食べに行ったし、テイクアウトしてきたことともある。
明日の昼にでも食べに来たいが、今でも店があるかと思ってラチャマンカラ通りをウロウロとするが、すでに無くなっているようだった。
店は大きになアパートへの入り口にあったのだが、そのアパートらしき建物は見つかったが、カオマンガイ屋は消えていた。
[,ネコに出会う、立ち去っても追いかけてくるので心が痛い]
友人と待ち合わせてレモンツリーで夕食を食べる。
店は変わっていないが、顔見知りの店員は誰もいなくなっているようだ。
厨房を覗き込もうとしたら制止された。
「シェフに挨拶したいんだけど」と言ったのだが、シェフはもういないとのことだった。
お気に入りの2階へ上がろうと思ったが、2階席は予約済みと断られる。
またーだんだんとチェンマイが遠ざかっているように感じた。
イカの引き肉詰めカレー煮込み、揚げ空芯菜のヤム。
この2つはレモンツリーに着たら絶対に食べたい料理。
味の方は昔と同じで、やっぱり美味しい。
そのほかにソムタムも注文。
ちょっと小ぎれいに盛り付けてあり、見かけばかりで味が今一つではないかと心配したが、そんなことはなくとても美味しい。
豚トロの炙り焼きもやっぱり美味しい。
ビールもシンハの大瓶に戻っている。
持ち込みのタイウイスキーの小瓶もソーダで割ってグビグビと飲めてしまう。
中国人のグループが10名ほど入ってきて、隣のテーブルで食事をはじめ、そして食べ終わって出て行った。
私たちはまだ料理をつつき、タイウイスキーをグラスに注ぎ、よろしくやっている。
観光に来ている中国人たちの食事に要する時間と言うのはなんと短いことか。
日本人も早飯食いが多いが、それでも日本人は夕食に酒を飲むことが多いので、時間が長くなりやすい。
満腹になったが、まだ何か話したりない、飲み足りない。
いや、飲み足りないなんてことはないはずで、すでに小瓶だけどタイウイスキーを一本空にしている。
こんな時は粥とビールで二次会と言うのがチェンマイらしく思えて、粥専門店を求めて夜道を歩きだす。
サンティタムを越えて、以前のリンピンスーパーのあったあたりで「ラーメンてのもいいですよね」と言うことになり、ラーメン屋に入る。
入ったところのラーメン屋、ここの主人が知人夫妻と知り合いだったようで、私も昔よく食べに行っていたプーカムホテル前の交差点近くに出ていた「屋台ラーメン」と言う屋号の屋台のラーメン屋であった。
あれから10何年経ち、屋台のラーメン屋もちゃんとした店構えを持つまでになっていた。
昔も良心的な価格で、かなりの人気店であったけれど、大したものだ。
知人夫妻の突然の来店に喜んだ店主は、寿司盛まで作って大サービスしてくれる。
そうそう、屋台当時もラーメン以外に定食や寿司、鰻まで出していたっけ。
これで満腹になりすぎてしまい、もうお粥どころではなくなってしまってお開きなる。
<hr>
8月20日(日曜日)
目を覚ましてすぐ
に外へジョギングに出かける。
チェンマイに住んでいたころよく走っていたタニン市場まで周回してくるコース。
昔は道をジョギングしていると、道端にたむろしている犬たちがよく吠えながら追いかけてきたものだが、今朝はほとんど犬に吠えたてられることもなかった。
昔と違って、道端から犬たちが減っているのだろうか?
犬の数の変化についてははっきりしないのだけれど、道端の空き地はずいぶんと減ってしまったようだ。
木立も減っている。
以前はこのジョギングコースを走っていたら空き地の前の杭の上にミミズクが止まっていたことがあった。
いまその空き地には大きなマンションが建っている。
朝食には妻の知人が経営しているミソネと言うゲストハウス兼韓国食堂へ行ってみることにした。
まだ朝8時前だからか食堂にはタイ人の女性従業員が一人いるだけであった。
「マダムはまだ降りてきていない」とのこと。
ミソネとはここのオーナー夫妻の娘の名前で、その娘は現在同志社大学へ留学中らしい。
韓国へ行かずに日本の大学へ進学して、さて将来はまたチェンマイに戻ってくるのだろうか?
[ホテルからミソネに向かう道は静かな住宅街になっている]
韓国人向けのゲストハウスの食堂なので、韓国人の若者たちが盛大に朝ご飯を食べているだろうかと想像していたが、カフェ風の店内にはキムチやナムル、わかめスープなどのバイキングが並んでいるが、先客は若い学生風が一人いるだけであった。
100バーツを払って私も韓国式朝食バイキングを食べてみる。
白菜やキュウリ、大根などのキムチ類や、ナムルがステンレス容器に入って並んでいる。
パンとトースターもあるが、玉子やハム、ソーセージなどの肉類は並んでいなかった。
サラダやフルーツもなかった。
もともとキムチなどは得意な食べ物ではないが、いろんな種類があったので、少しずつ皿にもって試食感覚で食べてみる。
また、コチュジャンもあったので、キムチやナムルと一緒にご飯の丼に放り込んでビビンバにしてみる。
[ミソネにて韓国風の朝ご飯]
だいたい食べ終わって薄いコーヒーを飲み始めたところこれから教会へ行くというオーナー夫妻が下りてきた。
二言三言挨拶を交わし、東京の妻へ電話をかけて、店の奥さんと話してもらう。
今日は妻の誕生日。
正午に東京ホテルをチェックアウト。
バンコクへも戻るバスの出発時刻は夕方の5時半だからまだ時間がだいぶある。
しかし、チェンマイでどこか行きたいところがあるわけではない。
午後一番くらいのバスを予約しておけば良かったと少し反省する。
タニン市場へ行き、揚げピーナッツを買おうと思ったが、以前よく買っていた店の主人が、以前とは違う人になっていたので、買う気が失せてしまった。
チャーンプアク通りを歩き、パパオ寺の境内へ入ってみる。
寺の入り口にはミャンマーの衣装を売る店があった。
[fパパオ寺入り口のビルマ(ミャンマー)の民族衣装を売る店]
[パパオ寺は現在のミャンマー領に住むタイヤイ族のお寺とのこと 境内に日本からの援助で建てられた学校があった]
ムアンマイ市場で新鮮な野菜や果物でも買って行こうかと立ち寄ってみるが、なんだかわざわざチェンマイで買って重たい思いしてバンコクへ持ち帰るのもバカバカしく感じてきた。
市場で買ったものはソムオーを剥いて食べやすくスチロールのパックに入れたものだけで、これをメーピン川べりに腰かけて食べてみる。
このムアンマイ市場にも中国人たちがたくさん来ていて大騒ぎしながらドリアンなどを買い食いしていた。
[薬屋のショーケースで惰眠をむさぼるネコ 店主も諦めているのだろう]
ワロロット市場あたりからちょっと小雨が降りはじめ、道端で少し雨宿りする。
ワロロット市場周辺にはやたらとプラスチック屋が多いことに気が付く。
プラスチック製品を売る店で、一種の雑貨屋なのただが、どうしてこんなプラスチック屋がチェンマイではあちこちにあるのだろうか?
[メーピン川にかかる古い鉄の橋]
ナイトバザールを抜け、鉄橋を渡り、マコーミック病院を過ぎてひたすら歩き続ける。
歩くしか他にやることがないのだけれど、肩にかけたカバンが重く感じ始める。
トゥンホーテン通りで遅めの昼食場所を探す。
コンビニはあるが、飯屋が見当たらない。
あっても休みだったりして、屋台すらない。
果物を売っている店を覗き込んだら、暗い店奥はテーブル2つだけの小さな食堂になっていた。
タームサンと言う注文食堂形式になっていて、注文した料理をこしらえてくれる。
何ができるか聞いてみたところ、カオソイもあるという。
カオソイとはチェンマイ名物のココナツカレー風味のラーメンで、私は特段好きでもないが、せっかくチェンマイに来たのだから、地元の名物料理くらい食べてみようかと言う気になった。
カオソイを注文するにあたって、鶏肉を入れないでと注文を付けるかどうか少し悩んだ。
普通カオソイには鶏の骨付き肉がゴロリと入っている。
このゴロリがグロテスクなので、私は食欲が減退して食べられなくなってしまうことがあるのだが、お肉大好きなタイ人たちは鶏でなければ豚肉と勝手に中身を入れ替えられてしまう。
鶏で悩むくらいだから豚肉はとても無理なのだけれど、そんなことはなかなか理解してもらえそうになく。
肉に関することは何も言わずにおいた。
出てきたカオソイは私の懸念も無用だと言わんばかりの内容で、鶏肉ゴロリもグロテスクまでには至っておらず、骨付きではあるがよく煮込まれていて、骨離れも良く、柔らかくて美味しかった。
さらに全体のバランスもとてもよかった。
これで30バーツであったから、私はほとんど感激してしまった。
[期待もせずに美味しいものに出会うとうれしくなる、さらに安いので感激の域に達する]
少し早めにバスターミナルでバスを待つ。
雨が降り始める。
先ほどワロロット市場で降ってきたような雨ではなく、夕立のような雨である。
早めにバスターミナルへ着いててよかった。
[大粒の雨が降り出してきた]
最近はLCC航空を利用する人が爆発的に増えている。
チェンマイの空を見上げても、ひっきりなしに飛行機が飛び交っている。
以前はこんな頻繁に飛んでいなかった。
一機に百人以上乗せて、日に何十便と飛んでいるのだからすごいものだ。
来るときに乗ってきた汽車の中でも感じたが、バンコクとチェンマイの往復に利用される交通機関が飛行機に移っているようだ。
しかし、それでも5時半発のソンバットツアーのバスは満席になっていた。
利用交通機関の主流が飛行機へと移っても、まだまだバスの需要も高いようだ。
つまり、バンコクとチェンマイを往復する人が増えているということだろう。
私がバンコクまでの10時間を座り続けるバスのシートは2階席の最前列。
この席がお気に入りである。
なんといっても、最前列で眺望がよく、また前が広いので足を伸ばしていける。
背もたれも深く倒れるので、長時間座り続けてても楽々である。
私の隣は工員風の男性、後ろの列からは中国語が姦しく聞こえてくる。
中国人の若い女性たちがグループで乗り込んでいるらしい。
うるさくなるかなと心配したが、バスが走り出したらお行儀よく静かにしていてくれた。
スーパーハイウェイをバスは南南東に向かって走る。
寒い。
最前列で前方の展望を楽しみにしていたのだけれど、窓が曇って前がよく見えない。
行儀が悪いが、足を突っ張って、足の裏でフロントガラスを拭いてみるが窓の曇りはちっとも取れない。
それもそのはずだろう。窓ガラスの外側が曇っているらしい。
車内の温度計は18度を指している。
外気はたぶん30度くらいだろうし、湿気もあるので窓が曇るのだろう。
それにしても冷やし過ぎだ。
[エアコン設定温度18度とは冷やし過ぎではないだろうかと思う]
ランプーンを過ぎて、また雨が降ってきた。
雨で窓の曇りも洗い流されたのだが、ますます寒くなってきた。
車内の気温はどんどん下がる。
エアコンの吹き出し口を閉じたが、どこからか冷風が漏れ出しているらしい。
15度になり、そしてついに13度まで車内温度が下がったところで、温度は一定になった。
他の乗客たちは寒くないのだろうか?
絶対寒いはずだ。
隣の工員風もピンクのブランケットにくるまっている。
そう言えば、以前は長距離バスに乗ると車内でビデオの上映をしていた。
このバスにも大きなテレビモニターが付いているけど、ビデオの上映はしていない。
それに以前はビデオの上映をしていないときは、たぶん運転手の趣味による調子っぱずれのタイ演歌が車内に流されていたが、このバスではそれもなく、車内は静粛を保っている。
やっとタイのバス会社も乗客へのサービス品質とはどんなことなのか理解し始めたのかもしれない。
しかし、このエアコンの効かせ過ぎはどうにかならないものだろうか?
まだまだタイの人たちは寒いくらいにエアコンを聞かせるのがサービスと心得ている人が多い。
これは私が働く社内でもおんなじである。
[とうとう車内温度は13度まで これはエアコンではなく冷蔵庫ではないだろうか]
途中、カンペンペットを過ぎたあたりで休憩が入る。
バスから外に出たとたん、一瞬にしてメガネが曇ってしまって、前がちっとも見えなくなってしまった。
タイでバスに乗るときはメガネの曇り止めを持っていた方が良さそうだ。
バス会社サービスの夜食にクオッティオうどんを食べる。
深夜のバスだとお粥が楽しみなのだけれど、お粥の提供はしていなかった。
クオッティオの具は豚肉と肉団子、ネギ少々。
タイの人の野菜摂取量は少なすぎるのではないだろうか?
バンコクに到着したのは午前3時半前。
寒さ対策さえしっかりしていれば、快適なバス移動だったと思う。
寒さにかじかんだ体でバイクに乗ってアパートへ向かう。