先月、タイ南部のトラン県ガンタンへ行ってきてから一か月が過ぎた。
あれは汽車に乗りっぱなしの旅だったけれど、温泉も出会った人も良かった。
久々に良い旅したなと感じられた。
が、どうもその帰りに、携帯電話についているカメラのレンズがダメになっていたようだ。
よく見てみるとレンズの一部が割れている。
ピサヌロークには懇意にしている携帯電話の修理屋があるので、6月初めにピサヌロークへ行った際に修理に出した。
半日ほどでレンズを交換してもらい、代金も400バーツとリーズナブルだったのは良かったのだけれど、あとで確認してみると、写真がすべて白っぽくなっている。
交換したレンズが汚れているのか、目に見えないような傷が付いているのかもしれない。
この修理屋、値段が安いのには訳があって、交換部品は新品ではなく、中古品を使っている。
そのため当たり外れがよく発生している。
[画像がかさんでいる 特に光がぼける]
バンコクでの足として使っているバイクも要修理の状態にあった。
少し前からバイク前輪のブレーキが作動しなくなることが頻発していた。
ちゃんとブレーキが効くときもあるし、ブレーキレバーを奥まで握っても全くブレーキが利かないときもある。
何度か握りなおすと、効き始めることもあったりして、不安定てな状態だった。
日本で乗っているラビットスクーターも前輪のブレーキがほとんど効かない。
これは故障じゃなくて、道路が未舗装だった1960年代までは、前輪のブレーキが効きすぎると、前輪がロックして、転倒事故になりかねなかったからで、1960年以前のモデルだと、前輪にはブレーキそのものがなかったりしていた。
そんなラビットスクーターに乗り慣れていたこともあり、バンコクのバイクでは後輪のブレーキはちゃんと効くので、スピードを出さないとな、注意しながら通勤に使っているバイクを分には大きな問題はなかった。
それでも、ブレーキがよく効くことに越したことはなく、タウンインタウンにあるバイクの修理工のところへ持ち込んだ。
修理工はブレーキを分解し、いくつかの小さな部品を交換した。
ベアリングもダメになっているというので、ついでに交換してもらった。
前輪のブレーキトラブルは、ブレーキレバーと連動している油圧ポンプの問題だったようだ。
[四角のがブレーキオイルのタンクでその下にポンプ]
修理をしてもらい、ブレーキがよく効く。
ちょっとレバーを引けば、すぐに止まることができる。
少しブレーキが効きすぎるかなとも感じたりした。
しばらくは、バイクの調子も良く、6月23日にバンコクから東に80kmほどのチャチュンサオ県へ行く用事があるのだけれど、車でなくバイクで行こうかぐらいに考え始めた矢先、またまたトラブルが発生。
最初のトラブルは朝の通勤での走行中、突然チェーンが外れた。
チェーンが外れる経験は何度もしているし、原因はチェーンが伸びていたからで、後輪の車軸を後ろへずらせばよいだけ。
しかし、めんどくさく感じて、そのままチェーンをギアにはめ込む応急処置しかしてこなかった。
さらに走行中、前輪から異音がし始める。
ゴゴゴゴゴとハンドルにも伝わる振動もある。
低速で走行しているときには、振動が大きく感じられる。
こりゃ、良くないなと感じたが、場所がバンカピ市場近くで、おまけに日曜日。
ちょうど野菜を買いに市場へ行ったときに発生したトラブル。
とりあえず、買い物を済ませ、だましだましアパートへ戻る。
日曜日でなければ、修理屋へ持ち込んで、チェーンの調整と併せて見てもらうところなんだけど、休日なので修理工も休み。
それと、アパートへたどり着いたころには、異音もほとんどなくなっていた。
しかし、先週末再び前輪からの異音が発生。
このときもやはりバンカピ市場へ野菜を買いに行った時だった。
ラムカムヘーンの高架道路から降りたあたりで、異音が激しくなる。
そして、どうも前輪のブレーキが勝手に効き始めたようで、前へ進もうとするのに抵抗を感じる。
エンジンをふかして無理やり進もうとするけれど、どんどん抵抗が大きくなってくる。
これでは到底市場まではたどり着けないと判断して、バイクを道端へ止めようとハンドルを切ったところ、転倒してしまった。
前輪は完全にロックされた状態になっていて、そこへハンドルを切ったものだから、後輪からの推力ベクトルが、舵の役割をする前輪が固定されているため、行き場を失って、車体を横倒しにしてしまった。
引力に引っ張られて倒れたのではなく、エンジンの力でねじ伏せられるように倒れたので、こちらとしてはひとたまりもない。
バイクもろとも道路へ倒れこんでしまった。
後ろにいた宅配ライダーが駆け寄ってきて助け起こしてくれたけれど、バイクを路肩に運ぶのにとても苦労した。
前輪が人の力では全く回らないので、前輪を浮かせるようにハンドルを持ち上げて、引っ張るのだけど、バイクと言うのは、自転車と違って重たいものだと実感する。
宅配ライダーの協力がなければどうにもならなかっただろう。
さて、どうしたものか。
バイクを動かせないのだから、修理屋へ持ち込むこともできない。
自分で修理するにも工具を持っていない。
こんな時は、じたばたしても始まらない。
もともと野菜の買い出しに来たのだから、市場で野菜を買って、バスでアパートへ戻り、工具を持って出直してくるのが得策と判断し、そのまま歩いて市場へ向かう。
市場まではあと少しの場所だったのはラッキーだった。
ライチが安くなっている。
1キロ25バーツ。
前週は40バーツだったから、随分と安くなった。
ことしはライチの色づきも良く、豊作なんだろう。
しかし、ライチに限らず今年も果物は概して値段が安くなっている。
マンゴーもマンゴスチンも、みんなキロで20バーツ前後。
タイはいまインフレがひどくなっているけれど、果物だけは例外のようだ。
肥料や農薬など化学製品はとっても値上がりしているはずで、生産者は泣いているのではないだろうか?
せめてもと言うわけではないけれど、せっせと安くなっている果物を食べて、協力をしているつもりになる。
1時間ほど市場で菜っ葉や果物を選び、布袋一杯に買い込んだところでバス停へ向かう。
バンカピ市場のすぐそばのバス停からアパートのあるバス停までのバス路線は137番。
しばらくバス停でバスを待ったがなかなかバスはやって来ない。
そこで、バイクを止めてきたラムカムヘーン通り近くのバス停まで歩いてみる。
ラムカムヘーン通りならば、137番以外にも168番バスも通っている。
ラムカムヘーン通りのバス停に立つ前に、バイクの様子を見てみる。
さっきは完全にロックしてしまい、まったく回転しようとしなかった前輪が、とても重たいながら、少しは回るようになった。
ブレーキがかかったまま無理に走ってきたものだから、摩擦熱でブレーキオイルが沸騰してブレーキのピストンを押し切っていたのかもしれない。
ディスクブレーキの円盤も、さっきまではとても熱くて触れなかったのが、少しは冷えてきたようだ。
このバイクを止めている場所から500メートルほど先にバイク屋がある。
このバイクは中古で、そのバイク屋から買ったもの。
そこへ持ち込んで修理してもらうのが良さそうだと考える。
ゆっくりゆっくりとバイクを走らせる。
100メートル走る。
200メートルになると抵抗が大きくなる。
300メートル、スロットルを全開、ギアはローでもほとんど進まない。
400メートル、前進を断念して、道端で再びブレーキが冷えるのを待つことにする。
バイク屋の看板がすぐ先に見せているけれど、あと100メートルが何ともならなくて悔しい。
道端にしゃがみこんで、ライチを食べる。
ライチはナイフがなくても皮を簡単に指先で剥けるので好都合。
しかし、皮に爪を立てて穴をあけると、そこから果汁が噴き出してくる。
その果汁、捨てておくのはもったいない。
さりとて、まだ洗っていないライチの皮に口を付けてチュウチュウ吸うのも気が引ける。
そこで、この果汁を有効活用。
熱くなっているブレーキにポタポタと滴らせる。
このライチジュースを冷却水代わりに使うことにした。
なんとも贅沢な冷却水。
ライチジュース100%!。
その甲斐あって、20分ほどで再びブレーキかゆるみはじめ、あと100メートルほど進んでバイク屋へたどり着くことができた。
店裏にいる修理工の大将をつかまえて事情を説明する。
15年前にバイクを買ったときに担当したのもこの修理工の大将だった。
しかし、「新しいの買った方がイイよ」が彼の答えだった。
彼によれば、ハンドルに付いているブレーキポンプの交換で2,000バーツくらい、しかし、それで直らなかったら、車輪側のディスクを絞めるシリンダー部分の交換で4000バーツくらいかかるそうだ。
たしかに、そんなに修理代がかかるのなら買い替えを考えるべきかと思うが、前輪ブレーキなどなくても構わないくらいに思っていたので「せめてブレーキを取り外してほしい」と頼んだけれど、それも断られてしまった。
しかたなく、三度ブレーキが冷えるのを待つことにした。
そのバイク屋の裏路地に、天の助けと言うか大きなクーラーボックスが放置されていた。
しかも、中をのぞいたら麻袋の中に、ほんの少しだけれど氷が残っていた。
この氷を使ってブレーキを冷やすことにする。
[ブレーキシリンダボックス、この中にピストンが2つ]
ライチのジュースと比較して数倍の威力を氷は発揮した。
どんどんシリンダーボックスに乗せるとあっという間に解けてしまうが、氷はまだまだある。
20分ほど氷で冷やされたブレーキは、もうバイクを人力で押しても進ませられるくらいになった。
極力ブレーキに摩擦熱を発生させないように用心深く、ゆっくりゆっくりとアパートへ向かって走る。
1km走っても、2km走っても、まだ抵抗は大きくなっていない。
アパートへ戻る前に、先日ブレーキを修理した修理工のところへ持ち込んでみる。
土曜日なので、修理工は働いていた。
ふたたび事情を説明。
修理工はブレーキの分解に取り掛かり始めた。
ゆっくり走って、極力摩擦熱を発生させないように慎重にここまでやって来たけれど、それでもブレーキディスクは高温になっていて、手で触れないほど。
そして、そのディスクを絞めつけているブレーキパッドはピストンによって強力に押し付けられていて、シリンダーボックスをディスクから抜くのに大きなハンマーでなんども叩かなくてはならないほどだった。
バラバラに分解して、判明したことは、たぶん経年や高温でブレーキ内のゴム製パッキンが劣化したり溶けてしまっていること、膨張したピストンとシリンダーが焼き付け状態となり、固定されてしまっていることだそうだ。
修理工も、「こりゃ、交換しないとダメだろうな」という。
しかし、交換しようにも部品がないらしい。
修理工は少し考えこんでから
「治るかわかんないけど、やるだけやってみるか」と言って、シリンダーに溶けてこびりついたパッキンの残滓を削り落としたり、ピストンを磨いたり、地道な作業を背中丸めながら始めた。
1時間くらいかかって、シリンダーとピストンの咬み合わせもぴったりとなり、ふたたび組み上げられたブレーキは、ブレーキレバーの押し返しも良く、前輪も抵抗なく回転する。
ゴゴゴゴゴと言った異音もなくなり、わずかにシャーシャーといったブレーキパッドが軽く触れる音だけとなった。
最後に後輪のチェーンも調整してもらって、修理代は450バーツ。
タイでも、こんな地道な修理をやってくれる修理工は少なくなっている。
熟練技術を持った修理工がいなくなっても、車やバイクの修理は、ユニットごとの交換で対応するのが一般的になってきている中で、この修理作業を見ていて、感動を覚えた。