9月21日 土曜日
突然の悪寒が走ったのは、ピサヌロークから7時間乗ってきた快速列車を降りたときだった。
ドンムアン駅は小雨が降っていた。
[ほぼ定刻に雨のドンムアンへ到着]
朝、ピサヌロークを出発するときは、体調で気になるところは何もなかった。
10時の快速列車、時間がかかるけれど、これだとドンムアン駅到着が台北行きのタイガー航空のチェックイン時間にちょうどよいので選んだのだけれど、前日にメールが届いて1時間出発が遅れるという。
まぁそのぐらいならどうということもない。
もともと、台北に到着するのも深夜で、朝までどう時間を潰すかで考えていたところなので、飛行機が多少遅延しても、むしろ歓迎したいくらいだ。
快速列車の二等席、エアコンもない老朽客車。
[快速と言っても、停車駅が少ないだけで鈍行とあまり変わらない]
しかも、二等席は車両の半分だけで、後ろ半分は三等車になっている。
乗車効率は悪くなく、ほぼ満席。
通路には車内販売が行き交っている。
田園風景の中、窓から風が吹き込んでくる。
ちょっと風で目が乾燥するのか、右目が痒いように痛い。
途中の駅でソムオーを買う。
食べやすいように既に皮が剥かれてあり、タイ人が使う唐辛子入り砂糖の小袋も付いている。
[車内販売から買ったソムオー、20バーツは市場とほぼ同じ値段]
窓からの風に吹かれながら居眠りをし、目が覚めるとなんだか喉が少しいがらっぽい
どこか埃っぽ所でも走ってきたのだろうか。
ナコンサワンを過ぎて、ガパオライスも車内販売から一バック購入する。
お粗末な内容だけど、値段も20バーツなので文句は言えない。
[濃いめの味付け、コメは安物なのかポロポロどあまりおいしくない]
ロッブリーも過ぎて、トウモロコシも買って食べる。
黄色いトウモロコシと、白黒マダラのカオニャオ・トウモロコシの二本がセットになったもの。
ピサヌロークを出たばかりのころにもトウモロコシは売っていたけれど、その時は三本で20バーツだった。
で、バンコクが近づいて物価も上がってきたのか、ここでは二本で20バーツとなった。
カオニャオはなんとなくモチモチした食感があるような感じもするが、もち米のネバネバは感じなかった。
[カオニャオ・トウモロコシ、素朴な味がする]
アユタヤからは観光客がたくさん乗り込んでくる。
団体客ではなく、バックパックなどを背負った個人旅行者たち。
この二等席はすでに満席なので、通路を後ろの三等席へ向かって進んでいく。
バンコクが近づき、外は小雨模様となってくる。
バンコクでの待ち時間に、夕食とビールでも空港とは反対側の市場周辺で食べておこうかと思っていたけれど、雨だと外を歩くのも面倒くさい。
空港内のコンビニで何か買って食べようか。
ドンムアン駅にほぼ定刻に到着。
さて、7時間も座り続けてきた席を立とうとした瞬間、身体の異常に気付いた。
悪寒が走り、身体に力が入らない。
嫌だな、風邪をひいたようだ。
ビールも飲みたい気分にならなくなってて、そのままフラフラと空港ターミナルへ入る。
LCCのカウンターは混雑しているイメージだったので、この身体のだるさで長いこと並ぶのはつらそうだと思っていたのが、タイガー航空のチェックインカウンターはガラガラであった。
「本日の台北行きは22:05に遅れます」との張り紙。
1時間遅れとの連絡は入っていたけど、結局5時間も遅れるらしい。
チェックインの際に「飲食券」として200バーツのクーポンをもらった。
使える飲食店は限られているようだ。
出国手続きをせずに、そのままターミナルでメールのチェックや返信をしたりして時間を潰していた。
それにしても寒い。
エアコンの効かせ過ぎではないだろうか。
この土地の人は、エアコンの温度調節ということを知らないので困る。
カンカン照りの日中なら知らず、こんな雨模様の夕刻は、外気温も涼しいのに、エアコンは冷蔵庫のように冷やしてくれる。
寒くて震えが止まらない。
パソコンの熱が唯一身体を温めてくれる。
マッチ売りの少女みたいになってしまった。
あまりの寒さに耐えきれず、再び鉄道駅へ戻る。
駅はエアコンもないので、ホームのベンチの方がここよりも快適だろうと考えた。
たしかに、たとえ古枕木を重ねたベンチであれ、エアコンの冷風に当たらないだけでも身体は楽であった。
蚊が寄ってくるのは気になるが、蚊より暖を取りたい。
屋根はあっても、小雨が降っている屋外なので、温かいとまでは言えない。
座っているのが辛くなってきて、そのままベンチに横にならせてもらって目を閉じる。
薄目を開けると、ときどき列車が入ってきて、また出て行く。
空港の利用者なのだろう、外国人観光客も前を行き過ぎる。
日本語が聞こえてくる方向を見ると若い人の二人連れだった。
このままここで眠り込んでしまいそうなので、ターミナルビルへ戻って出国審査を受ける。
出発待合室の中で、チェックイン時にもらった飲食券で何か温かい食べ物でも食べようかと思ったが、使える飲食店で売られている食べ物は、あたたかいものが見当たらない。
まともに食べ物らしいものも少ない。
スシなどもあったが、あたたかくないし、値段も高くて飲食券では大幅なオーバーとなる。
他にはサンドウィッチ程度。
結局、唯一温かそうなカップラーメン一つを200バーツ分の飲食券で買う。
売店の店員の態度があんまりよくない。
台北へ向かう飛行機の中もやっぱり寒い。
それでも、LCCだからか、機内には若い人が多く、Tシャツに短パン、サンダルと言った軽装の人もいる。
寒くないのだろうか。
狭いシートでは、身動きもできず、じっと固まったまま。
2時間くらいは眠れただろうか、便意で目を覚ます。
通路席でトイレに立ちやすいのは助かった。
腹も壊してしまったらしい。
水のような便。
この身体のだるさは、脱水症に似ている気がするので、ペットボトルの水を口に含むと、またすぐに便意を覚える。
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9月22日 日曜日
午前3時に台北到着。
深夜なのでガランとしたコンコースを進み、照明のほとんどが消えて薄暗い入国審査場を抜ける。
で、またトイレに入る。
そのまま台中行きの高速バスに乗り込む。
こちらはゆったりした座席で、足元も広いけれど、シートとシートの間に大きなひじ掛けがあって、シートにゴロ寝をしたくてもできない。
そして、やっぱりエアコンなのだろうか、車内が寒い。
午前5時半過ぎに台中到着。
もともと、今回の目的地は蘆山温泉。
そこまで、今回は台湾のローカル線、集集線に乗り、日月潭にも立ち寄ってなどと考えていたのだけれど、体調の悪さから考えて、とても無理そう。
温泉に直行して、早く温泉で暖まり、ベッドで横になりたい。
埔里までいつもは南投バスか台中バスに乗っていたのだけれど、今回乗り込んだのは全航バスと言うバス。
乗ってしまえばどこのバスでも一緒で、シートに腰かけ、しばらくしたら眠り込んでしまった。
飛行機の中ではあんまり眠れなかったのに、今頃になってやたらと眠れてしまう。
埔里でバスを乗り継いで蘆山温泉には朝8時半に到着。
ちょっと朝早すぎたかもしれない。
この時間だと部屋には入れてもらえないだろうか、いや、そもそも予約もなしに行って、部屋はあるだろうか。
定宿の蘆山園に到着。
朝食も済ませ、宿から出て行くグループは何組かいたが、宿の主人が見当たらない。
受付には「すぐ戻ります、お急ぎならお電話を」と書かれた札が置かれている。
お急ぎでもないし、電話しようにも電話も持っていない。
そのうち戻られるだろうと待つこととする。
30分待って、宿の使用人らしい小太りの女性が部屋の清掃のためか通りかかった。
「宿のご主人は?」と聞くと、
「まだ寝てる」とだけ答えて、そっけない。
こっちが何で待っているのかということまで気が回らないらしい。
さらに1時間待って10時すぎにやっと主人がやって来た。
部屋はあるという。
値段も最初に来た時から変わらず1泊2食付きで1200バーツとのこと。
[老朽化に対するメンテナンスは今一つだけど、かわいい演出はされている]
さっそく部屋へ入れてもらい、部屋の風呂に湯をはって、温泉に浸かる。
氷が解けるように、身体が表面からだんだん奥の方に向かって、溶け出していくような開放感がある。
やっと、やっと、寒地獄から解放された。
身体が暖まったところでベッドにもぐりこんで寝る。
2時間くらい眠ったところで目覚めると、また部屋の温泉に入る。
そしてまた寝る。
なんと、素晴らしい。
これを極楽と言わずして、何んか言わん。
[部屋の壁にかかっている絵は東京の家のトイレの絵とよく似ている]
午後4時ごろには大浴場へ行って、また温泉。
ここの大浴場、浴槽の大きさは2m x 4mほどと大きくはないけれど、お湯は源泉100%。
ほとんど入浴客がいないので、静か。
奥が小さな庭になっており、松の木があり、その手前に安楽椅子。
飲料水も用意されている。
[蘆山園大飯店の大浴場]
私はジャグジーとかより、落ち着いてお湯に浸れる方が好きだ。
しかし、5分も入っていると茹であがってしまうので、湯から上がって休憩したい。
そんなとき、浴槽のそばに安楽椅子があるというのは、実に都合が良い。
ここにダラリと寝ていても、他に入浴客もないので、気持ちない。
ときどきヒグラシの鳴き声など聞こえてきたら、これはもう最高である。
つまり、ここのお風呂が私にとって、理想とするお風呂なのである。
しかし、昨晩からカップラーメンしか食べていないのに、空腹を覚えない。
下痢はまだ止まらず、頻繁にトイレに行かなくてはならないが、腹の痛みはなくなった。
6時から夕食。
メインは巨大な肉団子のようで、紹興酒も少し飲む。
この旅館の料理で、気に入っているものに川海老の素揚げがあるのだけれど、今夜の夕食には含まれていなかった。
もっとも、消化には良くないかもしれないので、食べなくて正解だったかもしれない。
肉団子以外には、サラダ、青菜炒め、蒸し鶏、揚げ物、目玉焼き、スープ。
従来、仕切りのある四角いプレートに一緒くたに盛られていたが、今回は一品ずつの器盛りになっている。
内容は同じかもしれないけど、こうして出されると、よりおいしく感じる。
[ちゃんと器に盛ってもらっただけで、よりおいしそうに見える]
まだ腹の具合が本調子でないので、半分くらい食べたところで、食欲が急激に減退したけど、貧乏性で全部食べ切る。
紹興酒は半分だけにしておく。
夕食後も温泉に入り、部屋に戻るとテレビで「暴れん坊将軍」をやっていた。
以前もここで見た記憶があるから、何年も再放送を繰り返しているのかもしれない。
水戸黄門、大岡越前などとおんなじのワンパターンだけと見てしまう。
この手のワンパターン時代劇は今でも日本では製作されているのだろうか?
テレビを消してからは、部屋の風呂に入ってから眠る。
昼間あんなに寝たのに、すんなりと眠りについた。
そして、午前二時半ころに目が覚めたので、また温泉に入る。
[つづく]