10月27日 土曜日
今月もまた一時帰国。
しかし、東京には寄らずに、札幌へ直行。
妻とは千歳空港で落ち合う予定にしている。
昨夜のピサヌローク駅から乗った汽車は少し遅れて午前5時前にドンムアン駅に到着。
この夜行列車が寒いのなんのって、凍えて眠れるどころの騒ぎではなかった。
指定された寝台は上段。
そして、寝台の真横にエアコンの吹き出しがあり、一晩中冷気を浴びせかけてくれていた。
[タイのエアコンは暑いときには涼しくならず、涼しいときには寒すぎるという致命的問題がある]
ドンムアン空港よりスワナプーム空港までの無料シャトルバスに乗るが、前回同様にスタッフの対応が悪い。
まったく不愉快。
スワナプーム空港に到着したのが早すぎだのか、中華航空のカウンターはまだオープンしておらず少し待つ。
便の出発までまだ3時間近くある。
搭乗手続きを終えてから、空港地下の両替店でタイ・バーツから日本円に両替をする。
前回両替した時は、1円が0.29バーツだったけれど、為替が動いて0.295バーツになっている。
つまりバーツが弱くなっている。
30万円だけ日本円を購入。
さっさと出国審査を済ませて、中華航空のラウンジに入る。
中華航空のラウンジとしては、狭いけれど飲食物は台北の空港よりずっと良いと思う。
サラダも新鮮だし、飲茶もある。
昨晩のエアコンをギンギンに効かせた夜行列車で身体が冷え切ったままで、鼻水も垂れてくる。
このままでは風邪を引いてしまいそうだから、ビタミンとって、冷たい飲み物は控えようと思ったけれど、やっぱり冷蔵庫から缶ビールを引き抜いてしまう。
日本人男性グループがラウンジと喫煙室の間を行ったり来たりしている。
大きな声で話をしているので、会話が丸聞こえなのだけれど、千葉県あたりの漁業関連企業経営者の集まりのようだ。
ビールからはじまり、ワイン、ウイスキー、ブランデーと飲み継いで、搭乗案内があった時には、もう相当に出来上がってしまっていた。
ウイスキーはジョニ黒、ブランデーはヘネシーだから、日頃の100パイパーとはまた全然味わいが違う。
[ラウンジ内にマッサージ室が仕切られていたが、電動マッサージチェアがあるだけ]
搭乗した中華航空は、前回同様にガラガラ。
搭乗率は30%に満たないのではないだろうか。
いつもこんな感じだったら、そのうちにこの便がなくなってしまうのではないかと気になってくる。
しかし、すいている飛行機は、乗客の立場からすると快適だ。
居眠りをしているうちに台北到着。
札幌への乗り継ぎ便は明日の朝なので、今日は台北でお泊り。
空港から市内まで大有バスに乗り込み、圓山でMRTへ乗り換え。
定宿の北投温泉、月光荘には午後3時前に到着。
宿泊代金は一人ということで700元。
3階の通りに面した部屋へ通される。
台湾には数えきれないほど来ているけど、だいたい行く場所のパターンは決まっていて、有名観光地でさえ行ったことのない場所が結構ある。
この北投温泉の近くにある陽明山公園もいまだに行ったことがなかった。
まだ暗くなるまでには3時間くらいあるし、北投から陽明山までは6キロくらいのようだから、歩いていくのに手ごろだろう。
ということで、軽装で歩き始める。
北投公園南側の坂道を上り、温泉路から幽雅路の細い道へと進む。
この辺りまで来ると温泉街の外れに位置しているはずだけれど、まだまだたくさんの温泉ホテルがある。
温泉ホテルだけではなく、古い日本家屋も残っている。
きれいに手入れしてあるものもあるし、老朽化が目立つ建物もある。
北投でもだいぶ奥に位置するけど、戦前からこの辺りには住宅があったようだ。
[現在もだれか住んでいるらしい]
春天ホテル前にあった水色のペンキを塗った2階建て木造家屋は、昔の旅館のようだ。
戦後の旅館として営業を続けていたのか、窓にエアコンの室外機が取り付けられていたりするが、見たところすでに営業はしていない感じ。
こんな木造旅館に泊まったら、昭和レトロを満喫できそうだ。
日本家屋の中には、文物館やレストランなどとして開放されているものもあるが、入場料は結構高そうだし、レストランも高級そうで、私は二の足を踏んでしまう。
[台湾でも1970年ころまでは木造建築も多かったから、必ずしも戦前の建物とは限らない]
細い道をマイクロバスが下ってきた。
何気なくどんな人たちが乗っているのだろうかと、すれ違いざまに覗いてみたら、驚いたことに和服姿の女性が何人も乗っていた。
それも安物の浴衣なんかではなく、高級呉服姿。
男性も何人か乗っているが、男性はダークスーツ姿。
いったいこの人たちは、日本情緒を楽しむために、和装して温泉へ来た一種のコスプレーヤーなのだろうか?
それとも、本当の日本人で、台湾での結婚式にでも参列するところなのだろうか?
泉源路に入ると家並も消えて、山の斜面を這うような山道の様相になってきた。
左手は谷になっており、右側は木々の枝が覆いかぶさってくるようだ。
谷を挟んで反対側には、ちょっと大きな道が走っていて車やバスが行きかっているのが見える。
私が歩く側は、交通量はぐっと少なく、時折車やバイクがやってくる程度。
交通量は少ないけれど、硫黄の匂いは風に乗って漂ってくる。
やがて、谷間がまるで錫の露天掘りでもしているような、周辺の草木に覆われた緑一色の世界が、突然えぐり取られたように、草木の生えていない白っぽい谷が広がっているのが見えてきた。
[下の方に水が溜まっていたりして、南部タイで見かける錫鉱山跡によく似ている]
硫黄の臭いもきつくなってきた。
あちこちで水蒸気が上がり、硫黄ガスも噴出して、日本だったら、殺生河原とか、地獄谷とでも名付けられていそうだ。
温泉もとんでもない勢いで、ボッコン、ボッコンと水柱を上げて湧き上がっている。
[硫磺谷というらしい]
大都会台北から30分ほどの場所に、こんな光景が展開しているとは凄すぎる。
これほどの湧出量があったら、台北の一般家庭でも温泉を引くことができてしまうのではないだろうか。
[ものすごい湧出量、しかもあちこちから]
行義路との交差点を超えると、また地獄谷みたいな谷が見えてきた。
看板が出ていて、名前は地獄谷ではなく「龍鳳谷」となっていた。
この龍鳳谷の少し下に、和風情緒の日帰り温泉として人気のある紗帽谷温泉があると地図が示している。
紗帽谷温泉にある川湯温泉では以前入浴したことがある。
あの時は、MRTの石牌駅からバスで登ってきた。
今回は北投温泉から歩き始めて1時間ほどだから、北投温泉から紗帽谷温泉へ歩いてくることもできそうだ。
稜線の切れ目から、台北市街地が見える場所に出た。
スモッグにかすみがちだけれど台湾で一番高い建物の101ビルも見える。
この101ビルにも、まだ行ったことがない。
[このあたり、どこもかしこも温泉だらけ、、、遠くに101ビルが見える]
磺渓という渓谷沿いの登山道へ折れる。
地図を見ると、車が走る道と違って、急坂が続くようだけれど、陽明山へはだいぶ近道になっているようだ。
[ハイキングコースにも良さそう]
この登山道、めったに人が通らないのか、深山幽谷の雰囲気がある。
鬱蒼とした森の中で、聞こえてくるのは谷にこだまする渓谷の水音だけ。
が、こんなところにも小さいながら畑が拓かれて、黒い犬を連れて農作業をしている人がいた。
ここも台北の一部とは信じられないくらい。
[まるで昔話の世界のようです]
陽明山公園へは5時少し前に到着。
ここがいったいどんなところであるのか、実はほとんど事前情報を持ち合わせていない。
30年以上昔に眺めたガイドブックには、花時計の白黒写真が掲載されていて、自然にあふれ、桜の花のころは花見客でにぎわう場所といったようなことが説明されていたような記憶がある。
その大きな花時計、ちゃんとありました。
もう太陽もだいぶ西に傾き始めているけれど、この花時計周辺では記念写真を撮り合っている人たちがまだたくさんいた。
駐車場には大型の観光バスがお客さんの帰りを待っている。
[昔は日本でもよく花時計を見かけたような記憶があるけど、、学習ノートの表紙にもあったような]
公園内には花見の名所だけあって、たくさんの桜の木が植えられていた。
しかし季節でないため、桜の木々は花など全くつけていない。
ツツジももちろん咲いていない。
[桜が咲いたらさぞかしきれいなことだろう]
公園内には散策用の歩道が整備されており、少し歩いてみる。
大きな木々が茂る中に、小さな神社の鳥居が立っているのが見えた。
近くへ行ってみたけれど、鳥居だけで社はないようだった。
[鳥居だけが残っており、以前どんな神社があったとかの説明も見当たらなかった]
この陽明山は、この公園だけでなくまだまだ見どころはあるらしいのだけれど、もう日没が迫ってきている。
ここから麓までバスも頻繁に出ているようだけれども、日ごろの運動不足解消もあり、下りも同じ道を歩いてみることにする。
ただ問題は、先ほどの渓谷沿いの道を歩くかどうか。
日没後だと、真っ暗な山道で遭難だってしてしまいかねない。
時刻は5時半ちかくになっている。
台北の日没時刻が何時なのかは知らないが、もうほとんど太陽が西の空の向こうへ沈んでしまっている。
[夕闇迫る陽明山より西の空を望む]
かろうじて、まだ西の空がオレンジ色をたたえているけど、これだってあと20分とは続かないだろう。
でも、渓谷沿いの道を下ることにする。
それに距離にしたところで、1キロくらいしかないのだから、なんとかなるだろう。
歩き始めてすぐに、あたりはほとんど真っ暗になってしまった。
それでも、目も暗さに慣れてきて、なんとか道をたどることができた。
[台北の街の灯が見える]
来るときに台北の街並みが見えたあたりから、こんどは夜景を眺めることができた。
北投公園の手前にあるラーメン屋は人気店なのか、店の前には長い行列ができていた。
店の名前は「満客屋拉麺」。
店の外にまでテーブル出して、みんなラーメンをすすっている。
[店の屋号通り、お客さんで満員になってます]
月光荘に戻って、強酸性の温泉に入る。
源泉が引かれているけれど、源泉だけだと、熱すぎるので半分くらい水道水を混ぜて冷ます。
しかし、それでも温泉成分は強烈で、石鹸は全く泡立たないし、顔を洗おうものなら目が沁みて大変だ。
浴室は個人風呂仕様で、浴槽も大きくはないけれど、一回ごとに温泉のお湯をはりなおす。
しかも、循環ろ過式なんてケチなものではなく、源泉100%をザバザバである。
そのかわり、温泉水が肌に残っていると、あとで肌がチクチクしてくるので、入浴後に水道水をまたザバザバ浴びないといけない。
月光荘の女主人、前回お会いした時と比べると、だいぶ弱ってきてしまったようだ。
以前なら、日本語でいろいろと話しかけてくれたが、日本語もあまり口から出てこなくなってしまったようだ。
それでも、風呂から上がった私に、ドライヤーで髪を乾かした方が良いよと、たどたどしくなった言葉を補完するように身振りを含めて伝えようと気を使ってくれた。
フィリピン人の女性介護士に付きっきりで世話をしてもらっているようだ。
夕食には、水餃子を食べに出る。
焼き餃子が好きではあるが、台湾で買い込んだ冷凍餃子がバンコクの冷蔵庫にたくさんあり、このところピサヌロークからバンコクへ出るたびに、毎日のように冷凍餃子を食べているものだから、少々焼き餃子の脂の臭いが鼻についてきていた。
夜店街の中を進んでいくと、水餃子の食堂があり、テーブルもほぼ満席になつている。
きっと地元の人気店なのだろうと、空いていた席について、水餃子10個と炸醤麺の注文を自分で伝票に書き込んで店員に渡す。
水餃子は、今時破格の一粒4.5元。
しかも、安いだけではなく、うまい。
水餃子なので、皮は肉厚だけれど、それだけボリューム感もあって満足。
炸醤麺もおいしかったのだけれど、私は辣椒醤か豆板醤を入れて辛くしたかったのだけれど、店には置いていないようだった。
明日の朝は、4時半起きと早いので、金牌台湾缶ビールを一本飲んで早めに寝てしまう。
北海道編へつづく