頸椎の手術から二週間。
自宅療養の期間も過ぎて、職場復帰を果たす。
仕事の上では、首を動かせないという不便さはあるけれど、大した問題ではない。
しかし、首を動かせないためにバイクも車も運転をしてはいけないと言い渡されている。
そこで困ったのが毎日の通勤をどうするかと言う問題。
職場復帰してからの、二週間が過ぎ、どうやって通勤してきたかのお話です。
我がアパートの前から10分も歩けばラマ9世通りのバス停があり、フォーチュンまでバスに乗れば地下鉄に乗り換えられる。
これが一番まっとうな通勤方法であり、このルートは何度も利用している。
お酒を飲んで帰って、バイクを職場に置いてきているときなどだ。
しかし、近年は外でお酒を飲む機会もなく、もう長いことこのルートを使ってきていない。
以前なら1時間ほどで出社で来ていたのが、事情は変わっていて、先日はなんと2時間もかかってしまって、大遅刻をしてしまった。
通勤に時間が以前よりかかるようになった原因は、いくつかあり、たぶんバスの本数が依然と比べて減ったように感じられる。
とにかくバス停で排気ガスにまかれながら、20分くらい待ってもバスが来ないなんてことがある。
しかも、来たバスは満員で乗り込めない。
また、地下鉄も同様。
こちらは運転本数が減っていないだろうけれど、利用者が増えすぎて、乗り込めない。
3本から5本くらいやり過ごさなければ、乗れない状況になっている。
つまり、乗り物乗っている時間より、延々と待たされる時間が長いのである。
これはイライラするしストレスが溜まる。
特に、地下鉄は19バーツも取りながら、こんなサービスで腹が立ってくる。
これは往路だけではなく、復路でも同じことの繰り返しで、しかも復路では地下鉄の切符を買うのに15分くらい並ばなくてはならなかったりする。
切符の販売機の性能が悪すぎるのである。
販売機は巨大で、1台が業務用冷蔵庫くらいの大きさがあるので、切符売り場には3台か4台くらいしか置かれていない。
そして、動きが遅い。
特に釣銭が出てくるまで、待たされる。
投入できない紙幣やコインもあったりするし、事情の分からない外国人も多い。
自動改札機も、反応が遅くて、行列が伸びている。
そんなわけで、帰りは帰りでますますイライラしてしまう。
このオンボロ券売機と似たようなものを30年以上前にソウルの地下鉄で見たように思う。
そのオンボロさ加減に、地下鉄の切符は券売機で買うより有人の窓口で買った方が早いくらいだった。
また、香港の地下鉄の券売機もこれに似ていたように思うが、香港の券売機は香港らしく、没有零銭で、釣銭を出す機能がないので、釣銭を待つ時間分だけ処理速度が速かったようだ。
とにかく、数日間このバスと地下鉄を乗り継ぐルートを試してみたが、4日目からは別の方法を試してみた。
地下鉄の代わりに、バスでフォーチュンからアソークへ向かったらどうなるか。
バスは大渋滞しているラチャダピセーク通りを南下することになるので、時間がかかることは、自明のことだけれど、地下鉄を何本もやり過ごしている時間と比較したら、いい勝負のように思えた。
そして、それはある程度正しかった。
なんといっても、地下鉄と並走する区間なので、渋滞するバス利用者は少ないらしく、バスは混雑していない。
どんなに渋滞してても、座って居眠りだってできるのだから、快適である。
しかもバスの運賃は地下鉄の1/3にもならない6.5バーツ。
しかし、このルートも3日しかもたなかった。
アパート前からフォーチュンまでの不安定なバス運行状況は、朝から不愉快な気分になりやすい。
朝7時前にアパートを出て、バスにすぐ乗れれば1時間で会社に到着するし、なかなか乗れないと、始業ぎりぎりになってしまう。
この1週間は、精神的ストレスなしで通勤できる新しく開拓したルートを使っている。
アパートから徒歩で30分、距離にして2キロほどのところに国鉄のクロンタン駅がある。
ここで、カンボジア国境方面からバンコクへ向かう汽車に乗り込んで、ペッブリー交差点近くの踏切を越えたところで降りる。
そしてまた30分ほど歩けば、オフィスである。
通勤の所要時間は70分。
タイの汽車は遅れるのが当たり前と思っていたが、この1週間(と言っても実質5日間)利用してみたが、10分以上の遅れはなかった。
さらに、運賃もたったの2バーツである。
復路も同じルートを2回ほど利用したが、復路のペッブリー踏切は、駅ではなく、簡易の停留所で、駅員もいないし、切符も売っていない。
そのため、復路は切符を買うことなしに汽車に乗ることになり、無賃乗車のまま下車してしまう。
まったくラッキーなルートなのだけれど、難点は最終列車は18:41発であること。
これに乗るためには夕方6時すぎには退社しなくてはならず、上手く時間が合わない。
汽車が利用できないときは、会社からアパートまでの全行程を歩くことにしている。
距離にして6~7キロほどで、徒歩1時間半。
ちょっとした運動になる。
ただし、道路沿いは排気ガスで空気が汚れており、健康的ではない。
それでも歩くというのは、なかなか面白く、ふだんバイクでは気が付かなかった光景に出くわしたりする。
とりわけ、運河にかかる小さな橋の上に、ネコが10匹以上小屋に入って飼育されていた。
どのネコも雑種の、その辺にいるネコたちばかりだから、ここで商売としてネコを繁殖させているわけでもなさそう。
橋のたもとの雑貨屋のおばさんに質問してみたが、「飼っているだけ」とのこと。
商売としてネコを預かったりもしていないとのこと。
たぶん、個人的に捨て猫を保護しているのではないかと想像する。
どのネコもとても人懐こい。
また、一匹ずつ狭い小屋に入っているのは、ケンカや子猫を増やさないためではないかと思う。
[運河に架かる橋の上に、ネコが入ったケージがずらりと並んでいる]
これは発見と言うわけではないけれど、SHOW DCという巨大な観光客向けショッピングモールが1年ほど前に開業している。
開業前にいちど見学したことがあるが、半端でないくらい巨大で、贅沢な施設で、ロッテ免税店が入っていたり、巨大な劇場があったり、食堂街が充実してたりという、これからのバンコクツアーでは必須のポイントになり得るだけのものを持っていた。
しかし、1年経った今も、このSHOW DCへ立ち寄るツアーの話は耳にしない。
ふだんなら前を通り過ぎてしまうだけなのだが、徒歩と言うこともあり、ちょっとSHOW DCの現状を覗いてみた。
旧正月の時期でもあり、中国人観光客が大挙してタイへ押し寄せている。
SHOW DCの内部も、旧正月向けの飾りつけをしてある。
明々と照明はいり、開業前に見学した時と違って、テナントの店はちゃんとオープンし、商品もキッチリとディスプレイされている。
しかし、観光客の姿はチラホラとしか見かけない。
テナントにも、御自慢の韓国料理飲食店街も、まるで客が入っていない。
唯一お客が入っているのは入り口近くのハンバーガー店だけであった。
[春節の飾りつけはされているが、買い物を楽しんでいる外国人観光客の姿はほとんど見かけない]
ロッテ免税店が入っているとのことだったが、免税店とは言うものの、海外ブランド品の取り扱いはないようで、コスメなども国内メーカーのものが中心。
そのためか免税品の空港引き渡しというシステムではなく、購入したものはその場で受け取れるそうだ。
さて、汽車を使った通勤について書くつもりだったが、前置きからの脱線が続いてしまった。
アパートまえのソイを出て、コンビニ前の歩道橋でラマ9世通りを渡る。
このラマ9世通りは、とんでもなく大きな道路であるにもかかわらず、歩行者のことはほとんど考えられていない。
歩道などほとんどないし、あってもガタガタ、ボロボロで、途中で途切れていたりする。
さらに、この通りを横断するには、このような歩道橋があればよいが、歩道橋もほとんどない。
横断歩道は、この先2キロほどのところにあるだけ。
歩道橋から離れたところの人が、この通りを横断しようとしたら、タクシーにでも乗らなくてはならないだろう。
[歩道橋の上から眺めた朝のラマ9世通り]
歩道橋を渡ったところに、巨大な性風俗店がある。
以前は隣にも同じような店が並んでいたが、隣は廃業し、建物も取り壊されて更地になっている。
この更地になったところを斜めにショートカットして歩く。
雑草が繁茂しており、通り抜けるとズボンの裾に草の実がいくつもくっついてしまう。
[こんな空き地を歩くのは大好きだ 子供のころのようにワクワクする]
更地からA-Oneホテルへのソイに出てすぐ運河を渡る。
この運河に架かる橋から、水面を眺めると、大きな水トカゲが泳いでいることがある。
不思議に思うのは、この運河の護岸はコンクリートで垂直に切り立っており、この水トカゲはどうやって陸に這いあがってくるのだろうか?
[運河を泳ぐ大水トカゲ こんな生き物がバンコクには共存してます]
A-One ホテルは中国人や韓国人の団体観光客の利用が多いホテルで、1日中狭いソイに大型バスが入って来る。
大きなホテルで、宿泊客だけでなく、バイキング式のレストランでは団体客のランチやディナーの利用も多いようだ。
客層が客層なので、高級感などはあまり感じられないが、たぶんホテルと同じ経営と思われる喫茶室がホテルの隣の敷地にあり、名前を cafe daypoetsと言い、ビートルズの顔が描かれていたり、オブジェもちょっとアートだったりして、隣の団体ホテルとは全く異質な空間になっている。
[ソイの奥にある巨大なA-Oneホテルと壁に描かれたビートルズの顔]
そのA-Oneホテルの敷地をショートカットして、エアポートリンクの車庫の前へ出る。
以前、このエアポートリンクがなかったときは、クロンタンの駅はもっと行きやすかった。
今はこの車庫を迂回しなくてはならないので、10分くらい遠くなっている。
[A-Oneホテルの敷地内をショートカットしてバンコク病院方向へ]
鉄道線路沿いに、数百メートル歩くが、道端には事故で廃車にでもなった車が何台も打ち捨てられている。
近くにマッカサン警察署があるので、事故現場から運んできて、そのまま放置しているのかもしれない。
また、この線路沿いの通りは、この時間帯一方通行になっているようだ。
[放置された事故車の隣に渋滞の車列が並ぶ]
ひまわりの咲く駅の裏口から線路を跨ぎながら、駅舎へ向かい、切符を買う。
2バーツ也。
改札口はなく、ホームへの出入りは自由。
たぶん、切符など買わなくても汽車に乗れてしまうのだろう。
[タイでは11月から2月までの乾期がひまわりの季節]
[クロンタンからアソークまで2バーツ]
だいたい、汽車は数分遅れてくる。
駅の中に売店、キオスクというより雑貨屋があって、そこにネコと子犬がいる。
もうネコとは仲良しになっており、汽車を待つ間、ネコと遊ぶ。
[このネコもネコ駅長になれるだろうか?]
通勤客を満載した汽車は混雑しており、デッキにまで人があふれているが、車内の奥の方は、通路に人が立っているくらいで、日本のラッシュとは比べ物にならないくらい長閑。
デッキに人が立っているのは、そこが乗り降りに便利だからであろう。
[ホームが低いので、乗り降りは楽ではない]
最後尾の客車は行商人専用になっているようで、車両の窓から、生鮮食品などの入った段ボール箱などを降ろしている。
ちょうどその車両が停車する場所が、高架道路下の市場のようなところになっている。
日本でも昔は行商専用車があったが、バンコクではまだこうして健在のようだ。
[行商が運んできた生鮮品はそのまま駅前市場に並ぶらしい]
昔の客車なので、自動ドアではなく、ドアは開けっ放し。
デッキに足を載せ、手すりにぶら下がった状態のまま、汽車は走り始める。
沿線のバナナの葉っぱにすぐ目の前を掠める。
なんだか、何十年も昔にタイムスリップしたような感じがする。
[デッキにぶら下がったまま踏切を通過]
汽車旅も数分で、もうペッブリ交差点の近くの停留所に到着。
停留所の名前はアソークとなっている。
ここから地下鉄に乗ればすぐなのだが、もう地下鉄に乗りたくないし、会社まで歩いても30分とかからないので、アソーク通りを歩く。
あんまり外を歩かないタイ人たちも、朝の通勤だけは仕方ないのか、職場へ向かう人波ができている。
このあたりは、さすがにオフィス街なので、多少は路肩の歩道も整備されている。
センープ運河を越え、歩道には朝食やら甘ったるい飲み物を売る屋台が並んであり、また無料のタブロイド紙を配る人が至る所に立っている。
[通勤時間帯は渋滞知らずの運河の水上バスも超満員]
売っている朝食は、透明のプラスチック製弁当箱にご飯やお肉、卵などを詰めたものが多い。
プラスチック製の弁当箱は、使い捨てしてしまうにはもったいないような容器を使っている。
サンドウィッチを立ち売りしている若い人もいるし、小遣い稼ぎか、プラスチック容器入りの飲み物を売っている制服姿の女学生もいる。
[朝食を道端で買ってオフィスで食べるのがバンコクスタイル]
車も人通りも多いアソークの通りから、一本奥にあるワタナーの小道に入ると、だいぶ静かになり、歩きやすい。
しかし、歩道のコンディションは悪くなり、しかも歩道の真ん中に大きな消火栓が置かれていたりして、注意して歩かないことには、躓いてしまいそうだ。
[夜道で酔っ払って歩いていたら危険だと思う]
こうしてスクンビットの通りに面した職場のビルに入るのが8:15頃。
12階のオフィスにあがるためのエレベーターがなかなか来ないので、結局は最後にイライラしてしまう。