0月9日 土曜日    天気は晴れ 

 小鳥のピョンを、私はいつも愛着をこめて「ピョン子」と呼んでいる。鳥がこれほど人間になつくものかと自分でも信じられないくらいに、ピョンは人間好きである。とにかく人にベタベタとくっ付いていることが大好きで、人の姿が見えなくなると、寂しがって鳴きつづけるのである。こんな鳥を1羽残して日本に帰るなど、本当にできるのだろうか、何かの袋にでも詰めこんで、カバンに入れてしまえば、バレずに密輸できそうな気もする。ためしに布製小袋にピョンを入れてみた。鳴き声こそたてないが、嫌がって出ようともがいているのが感じられる。日本までの長いフライト時間を、こんなものの中でもがかせるのは忍びない。

 荷物整理も山を越して、一息つける状態になってきた。そこで、午後からスアンブア・リゾートへチェンマイ最後の家族旅行を試みる。リゾートの支配人の好意で、スタンダード・ルームからデラックス・ルームにアップグレードしてもらった。アパートから車で1時間とかからない比較的近距離にあるリゾートであるが、実に良い環境に恵まれていて、山岳リゾートと言うより広々とした庭園リゾートである。入り口近くの駐車場にビートルを止めてレセプションへ向かって歩き出すと、リゾートの女性スタッフが「ウエルカム・ミスター・タロー」と言って駆け寄ってきてくれた。仕事柄どこかであったことがあるのかもしれないが、私の記憶には無い。しかし、こうして笑顔で迎えられるのは悪い気分ではない。
 案内されるままに、敷地内の奥にあるデラックスルームのカテゴリーに指定されている建物に着いた。案内された部屋は、素晴らしかった。フローリングの床は鏡のように磨き上げられ、風呂場は広々とし、ベランダからは小川の流れる庭園が眺められる。
 ピョンもこの部屋が気に入ったらしい。ベッド手前に敷かれた編み込みのマットの上をピョンピョンと飛び跳ねては、編み込みの継ぎ目などをクチバシで突ついて遊んでいる。部屋の広さも40平米くらいあるだろうか、実に広く、天井も高い。

 ピョンを連れて敷地内の庭を散歩する。空には無数のトンボが飛んでいた。ピョンの鳥かごを小川に近い芝生の上に置いておいたら、トンボが気になるらしく、ずっと空を見上げていた。
 それから、ピアノバーのあるテラスで、ビールをグラスでもらい、のんびりと夕焼け雲を観賞する。こうした場所へ鳥籠に入った小鳥を連れて行っても嫌な顔ひとつされないタイの社会と言うのは、一部に原則論を振りかざす部署があったとしても、全体から見たら、動物と人間が対等に近い形で共生できる社会のようにも思える。

 夕食はリゾート内の食堂で食べた。バイキングかアラカルトを選べるようになっていたが、一人200バーツ(税サ別々)のバイキングを注文して少し後悔した。食べられる料理は、オカズがタイ料理ばかり5品ほど、洋風のものはコーン・スープとサラダ、それとパンのみ。フルーツなども用意されていない。宿泊客が少ないこともあるのだろうが、私はなんとか元を取り返すべく努力したが、お母さんと優泰は、支払い額の4分の一も食べずじまいであった。まぁ、支配人に部屋をアップグレードしてもらったことだし、この辺で帳尻を合わせさせてもらうのも悪くないかもしれない。
 食事中にメスのカブトムシが一匹飛びこんできた。背中の部分が黄色かかった5本ヅノ・カブトムシのメスのようであった。

 夕食後、リゾートの外へ出て、星を眺める。空気が済んでいるからか、夜空には沢山の星が眺められた。また、草の茂みのは、ホタルの瞬きも見ることができた。日本に帰ったら、ホタルなどめったに見ることができないだろう。仮に見られても、養殖モノであったりして、優泰にとってチェンマイはホタルのいる良い故郷になったかもしれない。

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