ダンボール箱に荷物を詰める。私は全体で300キロくらいのものかと思っていたが、お母さんが「これは絶対に持ちかえるの!」と主張するモノを詰めていると、とんでもないことになりそうだと言うことに気が付き始めた。なんと、優泰がインターナショナルスクールで使ったものの全部を持ち帰るのだと言う。それも宿題のプリントや資料のコピーなど、とにかく書類が多い。また、私の知らないうちによくぞこんなに買い込んでいたものだと言う飽きれてしまうほど、子供向けの英語の本がある。大きなダンボールにまずはひと箱だけ詰めてみたが、なんと重さはダンボール一つで50kgを越えていた。そして、そんなダンボールを10箱も詰めたにも拘わらず、まだまだ足りない。
「こんなもの、日本に帰ってチリ紙交換に出すつもりかよ」と私はクレームを付けたのだが、お母さんは聞く耳を持たず、「優泰が大きくなって、また英語を勉強するようになった時に使うんだから」と抗弁する。まさか、英語の本ではあるが、小学校の低学年用の教材を、優泰がまた勉強しなおすとは絶対に考えられないが、この辺でお母さんと言い争いをしても、私に勝ち目は無いので、黙々と本やコピー類をダンボール箱に詰める。
日本に帰って就職活動をするにしても、私は満足な長袖のワイシャツを持っていない。私のワイシャツはほとんど10年以上前に仕立てたモノで、もう襟も擦り切れ始めている。そろそろ新しいワイシャツがほしいところである。それと身長186センチの私の場合、日本の量販店で売っているワイシャツではサイズがなかなか合わない。そこで、仕立賃の安いチェンマイにいるうちにワイシャツを何枚か仕立てておくことにする。
私はチェンマイでは、比較的気に入っている洋服屋がある。ターペー通りに面した小さな店だが、チェンマイの仕立て屋や布地屋に多いインド系ではなく、中国系、しかも客家系の中国人の店で、値引きこそちっともしてくれないが、しっかりやってくれるので、もう7年くらいスーツはこの店で注文している。
7年前から利用していると言っても、この3年間はチェンマイに住んでいて、特にスーツを着るような機会も少なかったので、新しいスーツは1着も仕立てていない。そのため、この店を訪れたのも数年ぶりである。が、ここの店主は私のことを覚えていてくれた。
シャツはコットン80%の布地で5枚仕立ててもらうことにした。1枚あたり400バーツと言う。採寸をしてもらい、金曜にはできると言うことであった。採寸をしながら店主が「以前と比べて太ったねえ」と言う。確かに体重は再び増加傾向にある。先月の体長不良で3週間にも及ぶ禁酒生活が明けてからと言うもの、アルコールの摂取量はほぼ以前と同じ水準まで回復し、特に引越しをまじかに備えて、棚に残ったお酒を少しでも処分しようと張りきって飲んでいるため、体重がグングンと増えて、病気回復時と比べて5キロもまた太ってしまった。
店主が太ったねぇと言う裏には、そろそろ新しいスーツも作った方がイイだろうと言う意味合いも含まれているのだろう。私はどうやらその作戦にハマリ、英国製ウールと表示されている布地を選び出し、ダークスーツを注文してしまった。こちらは上下で4500バーツとのことであった。