3月31日 日曜日    天気は晴れ 

タイの最高峰はドイインタノンと言って、チェンマイの南西部にある山である。標高が二千五百メートルを超える山である。私はまだ一度も登ったことはなかったが、案外簡単に登れるらしい。それも頂上までドライブウェイが付いていると言う。一昨日ベッドに横になりながら読み返した梅棹忠夫の「東南アジア紀行」と言う本の中に、ドイインタノンに登るくだりがあった。当時はタイはまだ本当に未開発なところが多く、この山に登るのに、山の麓から象や馬、そして山岳民の人夫を雇って、一週間かかりで登っているのである。しかし、今地図を広げてみてみると、チェンマイから頂上まで距離にして100キロほどとなっている。それも全線舗装されているのである。これはやはり一度は登っておかないといけない。

頂上で食べようとサンドウィッチを用意して、午前10時に3人で出発。ビートルも快調である。チェンマイ市内でガソリンを2百バーツ補給。麓の町のチョムトーンまでは4車線のハイウェイがあるのだが、あちこちで道路工事をしており、徐行をさせられる。チョムトーンの町の入り口でハイウェイを右折して、ドイインタノンへの登山道に入る。まもなく国立公園の入場料集金所に出くわす。入場料はタイ文字では20バーツ。英語では200バーツとある。いつものように「タイに住んでいるからタイ人価格の20バーツでOK?」と聞いたら、タイ政府の身分証を見せろと言われた。もちろんそんなものはないが、免許で良いか?と質問したら、だめだと言う。身分証がなければ納税証明を見せろと言う。これも所得税など納めていないから持っていないが、アイデアが浮かんだ。自動車の登録証が自動車税の納入記録になっている。私はビートルから登録証を持ち出し、「ほれこの通り自動車税を払ってますよ」と提示した。これでタイ人価格の20バーツと自動車入場料の40バーツでOKとなった。もっとも、自動車税の次回納付期限が明日までとなっていることにも気付いてしまった。

麓から山頂までは約50キロの距離で、山を登れば登るほど坂道が急になり、おまけに空気が薄いのか、ビートルは空冷のエンジン音響かせながら、ゆっくりと登って行った。はじめは広葉の熱帯の樹林から、松林となり、山頂近くでは栂のような植生の森となり、木々も岩もすべてコケで覆われている。なんとなく日本の北海道は日高連山にでも入り込んだようだ。もっとも熊笹に覆われてはいないけど、、。山頂には12時半前に着いた。チェンマイから2時間少々で来てしまったことになる。「東南アジア紀行」の中で梅棹教授は、当時チェンマイで写真館を経営していた日本人の田中老人が、今世紀の初めにバンコクからチェンマイまで2ヵ月もかかってたどり着いたのに、自分たちは自動車でたったの一週間で来れるようになった。定期バスなら一日で走り抜けるそうだ。と言って、半世紀のうちにタイが交通面でどれほど発展したかを驚嘆していたが、私もその驚嘆した梅棹教授一行が一週間もかかったドイインタノンの登頂をたったの2時間少々でこなしてしまったのだから、私も驚嘆しないわけにいかない。

山頂は日差しは強かったが、気温は低く、日陰では寒いくらいであった。きれいに花壇が整備されているビジターセンターの前でサンドウイッチをつまみ、ポットのコーヒーを飲んだ。食後に優泰と山頂の脇にある湿地帯に伸びる木道を歩いた。アップダウンはあるし、空気も薄いので、すぐ息が切れてしまうが、新鮮な空気はとても気持ちが良かったし、ここが熱帯のタイであるとは信じられない景観であった。
ビジターセンターの展示を見ていたら、ここで観測された最低気温はマイナス8℃であるそうだ。当然ながら雪が降ってもおかしくない気温だが、タイでは雪が観測されたことがない。なぜならば、氷点下になる冬季はこのあたりは寒気になっており、何ヵ月も雨が降らない季節だからだ。しかし、コケがこれほど繁殖しているところを見ると、平地よりも湿度は高いのかもしれない。霜は降りるそうだ。

2時に下山。下りはエンジンブレーキを利かせながらだが、上りほどの苦労はなく、楽々と下り、4時前にはアパートにたどり着いた。しかし、山頂と異なり、下界のなんと暑いことか、ビートルも車体の鉄板がフライパン並みに暑く焼け、窓ガラスも熱くなり、エアコンを回してもほとんど冷えない。これも半世紀後には山頂から巨大なダクトをチェンマイ市内までつなげて、山の涼しく清潔な空気を、灼熱のチェンマイ市内に送り込んでくれるようなシステムができているかもしれない。

ドイインタノンの写真

朝食

お母さんと優泰はコーンフレークを食べ、私は残っていた冷やご飯とナスの味噌汁を食べる。

昼食

ドイインタノンの頂上でサンドウィッチを広げる。

夕食

レモンツリーで鶏肉の天ぷら、カニのカレー炒めヤムウンセン、タイ式のオムライスを注文。

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