10月21日 月曜日    天気は曇り

 さて、待望のアンコール観光である。ホテルは二流ながらまずまず快適。物価の高いカンボジアだから、タイのような低価格、高サービスは期待できないが、殺風景ながら部屋は広く清潔で、バスタブもあればNHKも入る。そして本日の観光は日本語のガイドとハイヤーを雇った。つまり完全なる観光客である。観光客と言うことは、それ相応の出費も覚悟しなくてはならない。

 ガイドをつとめてくれるのは、ソバタナさんというバッタンバン出身の21歳の女性。ここシエムリアップで2年間日本語を勉強してガイドになったそうだ。ハイヤーを運転してくれるのはソピアさんというこれまた21歳で男性。運転以外に英語のガイドもやっているという。
 はじめに案内されたのはアンコールトムの入り口にあたる南大門。アンコールトムもチェンマイ同様に四角く堀が巡っており、東西南北に門があるそうだ。そして、南門だけは門が二つあり、全部で五つの門があると説明を受ける。南大門には、堀を渡る橋が続いており、橋の欄干には悪魔と神様が大蛇を抱えて引いている石像が続いていた。壊れているもの、修復されたものなどあるが、クメールの石像とはこの石像が初対面である。引っ張られている大蛇は七つ頭がある大蛇で、これはチェンマイのドイステープ寺院の欄干にも使われているものと同じである。

 アンコールトムではバイヨン寺院を案内される。広大なアンコールトムの中でも、最も有名なバイヨン寺院は、四角く厳つい四面像で知られており、厳つい顔ながら、口元だけには笑みを浮かべており、「クメールの微笑み」と呼ばれていることは、ここを訪れる前から知っていた。そして、是非実物を拝見してみたいものだと思っていた。バイヨン寺院はいくつかの回廊がめぐらされており、内側の回廊へ行くほど、高くなるとても立体的な寺院であった。そして、その回廊を結ぶ石組みの階段はとても急であり、第三回廊へ登る際には、両手両足で這い登る形となった。クメールの微笑みであるが、まさに四面像は56基もあり、顔の数は合計で224面となる。もちろん数えたのではなく、ガイドのソバタナさんの説明によるものだが、胴体が無く、巨大な顔面ばかりが彫刻されているのには迫力があったし、日本でもタイでもあまり見かけない構図なので、少しばかり違和感も感じた。さらに、ここを訪れる前から何度も写真などで見てきたから勝手なイメージが先行していのかもしれないが、思っていたよりも顔面が小さく感じた。(もちろんどれも2メートル近い顔なのだが、、。)
 バイヨン寺院のレリーフは顔面だけではなく、水の妖精が踊っている姿もあちこちに彫られていた。この踊りをアプスラダンスと呼ぶそうで、現在に伝わる宮廷舞踊の元になっているそうだ。確かに上半身の捻り具合や、手先の反り返り方など、タイの舞踊とも良く似ている。が、下半身は、股をほぼ一直線になるくらい広げ伸ばし、ひざを追って、カギの字型にしている。これなどは、タイの舞踊では、ラーマキェン物語に出てくるハヌマン猿王の足のさばき方に似ていた。
 当時のクメール人たちの生活や行軍のレリーフもあった。行軍していく先の敵とは、当時ベトナムにあったチャンパ帝国であり、チャンパに対抗するクメールは中国人の傭兵を使ったりしていたことがレリーフから分かった。

 今日は曇っていて、太陽が照りつけるわけではなく、屋外の観光に最適らしいのだが、湿度はだいぶ高い。午前中にバイヨン寺院の見学を済ませて、午後からアンコールワットの見学をすることになった。説明によれば、アンコールトムは東向きに立っており、午前中に観光すべきなのに対して、アンコールワットは西向きなので、午前中に観光すると逆行になってしまうそうだ。西向きの寺院と言うのは珍しいのではないだろうか、、。そして、昼食はシエムリアップ市内にあるニューバイヨンと言うレストランに案内される。遺跡群内にはレストランなどは無いそうだ。
 ニューバイヨンなるレストランはまさしく観光客専門のレストランで、エアコンこそ無いものの、小奇麗でサービスも良かった。もちろん値段も良くて、ペットボトル入りのお水さえ2ドル、缶コーラが1.5ドルである。カンボジアの名物料理でも食べてみたかったが、メニューには中華風、タイ風のものばかりで、カンボジア料理とかかれているものは、チャーハンや野菜炒めなど、かなり限定されていた。その中からクメール式野菜カレーを注文。不味くなかったが、ちょっと外国人向けに洗練されすぎている感じのカレーであった。店内には何組もの日本人観光客(なぜか女性ばかり)と、西洋人カップル、タイ人のおじさんグループなどがいた。従業員のうちの何人かはタイ語を上手に話していた。

 昼食後、3時までホテルで休憩することになった。私はこのホテルでの休養に大賛成であった。昼食を食べすぎたこともあるし、昨日の行程はハードだったのでとても疲れていた。しかし、休憩が許されたのはお母さんだけで、私は優泰に連れられてホテルのプールで水遊びに付合う羽目になってしまった。プールは静かで、綺麗であったが、私たち以外に人影は無く、きっと宿泊客たちはシエスタ(昼寝)か遺跡観光でもしているものと思われる。羨ましい。

 アンコールワットはさすがに東南アジア最大の観光名所のひとつだけあって、ものすごい数の観光客でいっぱいである。日本人、韓国人、西洋人、タイ人、それにたぶん選挙関係の後援会グループとおぼしきカンボジア人の団体、、。ほとんどがガイドさんに案内された団体客である。この遺跡群の見学には外国人は入場料を払うことになっており、ひとり20ドルである。結構良い金額である。3日間有効のパスは40ドルで1週間は60ドルだそうだ。そんな金額の入場料を払って、こうして蟻塚に出入りする蟻ような観光客を見ていると、いったいこの遺跡たちは1日にどれほどのお金を稼ぎ出してしまうのだろうかと、要らぬことを想像してしまう。また、なんだか、戦争で疲弊したカンボジアを救ってくれる救世主のようにも思えた。

 アンコールワットはクメール帝国のジャヤバルマン2世の墓であるとソバタナさんに説明を受ける。なるほど、それで西向きなわけだ、、。さらに、アンコールトムはジャヤバルマン7世によるもので、時代が違い、宗教もアンコールワットがヒンズー教であるのに対して、アンコールトムは仏教なのだそうである。案内を受けなければ何もわからないところであった。こちらのレリーフには当時のクメール人たちの世界観を示したものが多く彫られていた。天国と地獄、行軍、ラーマヤナ物語に、天地創造、、。ここでも天地創造のレリーフには神様と悪魔が、大蛇を引き合っていた。大蛇は亀の背中に乗った山に巻きついており、大蛇を引き合うことで、湖の水が攪拌され、湖の中の魚やワニがバラバラになっていくといった図であった。湖と言うのはトンレサップ湖だそうで、今日のホテルでの休憩が無ければ、是非一度この目で見てみたかった湖であった。レリーフには沢山のワニが彫り込まれていたが、現在のトンレサップ湖にはもうワニはいなくなってしまったとの事である。
 行軍のレリーフにはタイ人の傭兵が彫られており、その姿かたちは、まるで猿扱いである。ガイドのソバタナさんの説明によると、クメール人の兵隊は凛々しく描かれ、タイ人はニヤニヤ笑って、だらしなく描かれているのだそうだ。しかし、本当にこれはタイ人なのだろうか?アンコールワットは9世紀から10世紀頃の築造物と認識しているが、現在のタイの土地にタイ人がまだ南下してくる前の時代だったのではないだろうか?タイの先住民はモン族だから、ここに描かれている傭兵はモン族かもしれない。(もし、大間違いをしていたら、是非とも指摘していただきたい)

 日没近くに、丘へ上って夕日を眺めましょうと言うことになった。平原の続くカンボジア台地だが、ところどころにポツリポツリと丘がある。そのうちのひとつから夕日や朝日を眺めるのが、名物になっているらしい。暮れかけた丘を登る道は、多分かつては階段が続いていたのだろうが、現在は見る影も無い。むしろかつて階段だったものの遺物がそこかしこに転がっているので、却って歩きづらい。登山道の脇には象がいて、有料で象の背に揺られて山頂まで運んでくれるサービスもあるようだ。
 夕日は曇り空だったために、眺められず、ただ空が赤っぽくなり、紫になり、そして暗くなるのを眺めるだけであったが、平原に宵闇が迫ってくるのを丘の上から眺めるのも悪くは無かった。しかし、下山するのには、真っ暗になってしまったこともあり、一苦労した。

 夕食にどこかお勧めは無いかと聞いたところ、アプサラダンスのディナーショーが良いでしょうと言うことになり、ホテル近くのクーレンレストランと言うシアターレストランへ行く。ひとり15ドルとなかなかの金額である。チェンマイのカントークディナーは普通300バーツ(7ドル)以下だから倍以上高い。しかし、ここも観光名所のひとつなのだろう、観光バスで駐車場は満杯であった。日本人団体客も沢山来ている。料理はバイキングであった。各自皿を抱えて料理を取るのだが、ものすごい行列ができている。料理の内容は、ここでも期待していたカンボジア料理と言ったものは目立たず、タイ風のものや中華風、洋風のものが中心であった。ショーの方も、どちらかと言うとタイの民族舞踊ショーと良く似ている。ショーの最後になって、「ではお待ちかねのアプサラダンスです」となったのだが、これもタイのものよりももう少し動きが大きいかなぁと感じるくらいで、遺跡のレリーフにあった様な下半身の動きは見られなかった。料理も美味しかったが、アンコールビール(3ドルくらい)は、期待していたほどの味ではなかった。

朝食
ホテルのレストランでバイキングの朝食。ロクな食べ物は無かったが、従業員の対応は良く気持ち良かった。
昼食

ニューバイヨンと言う観光客向けの食堂で、カンボジア・カレーと生春巻き。

夕食

団体観光客でいっぱいのカンボジアのダンスを見せると言ったディナーショーを食べに行く。

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