9月18日 木曜日    天気は晴れ 

 朝から弁護士さんと近隣国出身者の労働許可取り付けのためにチェンマイ郊外の労働局へ行く。手続きは吹きさらしの倉庫のような建物で行われる。テニスコートが2面取れるくらいの広さに数百人以上の労働者たちが行列を作っている。何でもチェンマイ在留の近隣国出身労働者はこの2週間のうちに労働許可の書き換えをしないといけないらしい。近隣国出身者で、チェンマイのタイ人とも民族的には大きな違いがあるはずないのだが、ここに並んでいる労働者たちの表情はタイ人の表情とはまるで違う。表情がとても暗いのである。タイでなら相当の下層階級の人たちでも、口元と目はいつもにこやかで、とても明るいのだが、ここにいる人たちは暗い。それはさておき、とんでもない行列である。まともに並んでいたら日が暮れそうである。それにとんでもなく暑い。弁護士さんはスタスタと行列の最前列に回りこみ、担当者と話し始める。そして、担当者は私の方にも手招きをしてイスにかけるように進めてくれる。数百人が暑い中で立ったままじっと待っているのに申し訳ない気がしたが、まぁ勘弁してもらおう。それと言うのも、私が席について10分もすると女性係員が拡声器を使って「本日の受付定員を超えたので、もう受け付けられない」とアナウンスをはじめた。時刻はまだ10時過ぎである。担当の係官は私の担当するラジオ番組を良く聴いていてくれて、私のことも知っていた。これが幸いして、書類審査は非常にスムースであった。特に煩雑な雇用主の変更手続きについては、変更手続きの行列に並ばなくても済むように段取りをつけてくれた。午後2時までには変更手続きをしておいてくれると言うので、ちょっと早いが昼食を先に食べることにした。

 昼食後、弁護士さんの別件の仕事に付き合って刑務所へ行き、受刑者(依頼主)と面会する。刑務所でも我々は特別扱いで、ガラス越しの面会室も個室である。エアコンこそないが、扇風機が涼しい風を送ってくれる。受刑者はイスラエル人で、今年2月にマリファナ所持で逮捕されたのである。弁護士さんが先日から担当しているのだが、前任の弁護士は相当の悪徳弁護士だったようで、話を聴いてみるとほとんど詐欺のようである。相手は受刑者と言う弱い立場で、囚われの身なので、まさしく手も足も出ないと言う状況だったようだ。が、本日の用件と言うのは、この受刑者の弁護活動についてではなく、この受刑者が別の受刑者を紹介してくれると言う。受刑者の紹介と言っても弁護士さんにとっては依頼主の紹介と言う意味になり、仕事が入ることになる。その相手と言うのは、偽造ビザを使ってチェンマイに入ってきたバングラデシュ人である。本人の弁によればビザはバングラデシュ第2の都市チッタゴンにある旅行会社にお金を払って取ってもらったもので、自分は偽造とは知らなかったと言う。それに、いっしょに捕まった5人の内2人は保釈を許されたのに自分は一年の刑というのは納得できないと言う。私は服役中の受刑者と話などしたのは初めての経験である。弁護士さんが私を面会に連れてきたのは、タイ語と英語の通訳のためである。しかし、私はタイ語も英語も下手糞なので、とても弁護活動の手助けにならないと思うのだが、、。

 午後2時に再び労働者たちの渦にもぐりこみ、担当係官と話をする。雇用主変更は無事に完了したそうで、あとは労働許可の申請が必要だと言う。この許可申請には病院での健康診断と保険への加入手続きが必要だそうだ。そう言えば私が労働許可を受ける際も健康診断書の提出を求められた。健康診断書と言っても町の病院でお医者さんから簡単な問診と触診を受けただけで簡単に作成して持ったが、近隣国出身者のはどうやら簡単ではなさそうだ。指定のフォームがあり、血液検査からエックス線の胸部撮影まで含まれる。係官はメーテンと言うチェンマイから40キロほど離れた町の病院へ行くように薦めた。我々は弁護士さんの車に乗り込み健康診断を受けるために走り出したが、なぜメーテンなのか合点が行かなかった。病院なら労働局の近くにナコンピン病院と言う大きな病院があるし、そこでもイイのではないか、40キロも往復するのはガソリンの無駄だし、時間ももったいない。係官のお勧めはあったが、我々はナコンピン病院へ入ってみた。そして、驚いた。ここにも近隣国からの労働者であふれ返っている。受付へ回って事情を話したのだが、本日の受付は午前中に終了したと言う。今日一日だけで、これらの労働者400人の健康診断をするそうである。しかも、各検査の結果は本日中に出すことになっていると言う。あっけなくナコンピン病院に断られて、お勧めにしたがってメーテンの病院へ向かう。

 メーテンの病院は田舎の病院で、ネクタイ姿の弁護士さんと私に敬意を示してくれたのか、受付終了後にもかかわらず、追加受付をしてくれた。ここは公立病院で、町の診療所に毛の生えたくらいの規模であるが、ここにも近隣国労働者が狭い待合室に集まっていた。本日の労働者検診は132人だそうだ。受け付けてもらえて喜んだのだが、それから待たされるのが長かった。エアコンもない診察待合で労働者たちの放つ独特の雰囲気の中でひたすら順番を待つ。尿検査や血液検査などは比較的スムースであったが、立った一台しかないレントゲン撮影機は性能が悪いのか、一人の撮影にかなり時間がかかり、レントゲン待ちがものすごく長かった。それに、ときどき急患が入ってきて、レントゲンは急患用となる。3時過ぎに病院で登録をしてから、検査が終わったのは9時近くであった。今日は木曜日で、本来ならラジオ番組の日であるが、間に合わなかった。穴をあけてしまったのだが、まぁ勘弁してもらおう。それにこの弁護士さんは我々の番組チームのチーフでもあるのだから、チーフの了解は取り付けているも同然である。

 このような環境で手続きをして、なおかつたいして賃金ももらえないこれらの近隣国からの労働者が実に惨めに思えてきて、かわいそうに感じる。ほんのわずかな違いで国境線の内側に生まれたか、外側に生まれたかで、これほどの差が出てしまうとは。それに対するタイ人職員たちが同様感じているかどうかは判らないが、弱者に対する傲慢さと言うものは感じられない。日本の入国管理事務所でしばしば感じた、イヤミのある接し方というのはしていないようだ。そして、病院の看護婦さんたちは早朝から夜9時まで労働者たちの検診にあたっており、あと一週間の辛抱だと言っていた。手順が良いとは思えないが、怠けている職員はなく、タイ人でもこんなことがあるのかと思うほど、隣の職員とおしゃべりさえせずに、黙々と仕事をしていた。

 チェンマイに戻ったのは夜10時となった。弁護士さんは新しく弁護士事務所を私の住むアパートの近くにオープンさせるから、そこで私に秘書として働いてくれないかと誘ってきた。友人としてならいくらでも協力するが、弁護士秘書など、とてもとても、、。それに先日までは、日本からの長期滞在者向けのサービスアパートをやりたいからマネージャーをしてほしいと言っていたし、やはり友人の一線を超えてビジネスライクには向かないようだ。そして、友人としてなら、この弁護士さんはとても頼りになると、よく世話をしてくれる。

朝食
フレンチトースト。
昼食
刑務所近くのバイキング。
夕食
昨日食べきれなかったレモンツリーのグリーンカレー。

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