1月21日 水曜日    天気は晴れ

 K.K.トラベルでの仕事が忙しかった。珍しいことながら、私を訪ねてくれるお客様が何組もいる。日本人だけではなく、西洋人も多い。リュックサックを背負った旅行者たちはあちこちで、旅の情報を交換し合うものだから、きっとどこかで私のことが話題にでもなったのだろう。お客様が日本人でも西洋人でも、私は日本式の旅行サービスを提供している。採算が合うかどうかよりも、旅行会社などという商売は信用してもらえなくては、何にもならないと信じて応対させていただいている。まだまだ、各地への料金の確認だけされるお客様も多いが、こと売ったら売りっぱなしの旅行代理店の多いチェンマイで、アフターサービスまでしっかりおこなうと言うことが、競争の激しい業界内での差別化と生き残りの道だと思っている。もっとも、その感覚は私しか持ち合わせておらず、他のスタッフたちにはほとんど浸透していない。
 「ルアンプラバンまで船でいくらだ」と言う質問が多いのだが、「1600バーツ」と答え、「高いんじゃないか」と言われると「ならスペシャルで1400バーツにしますよ」などと言った会話が、スタッフとお客様の間で交わされているのを耳にすると、それがタイ式なのかもしれないが、私はあまりよい気分にならない。人を見て料金を決めるとか、理由も提示しないで料金を下げるとか、、。これでは、信頼などしてもらえないのではないかと思うが、それが商習慣として定着している。

 日本の旅行会社のカウンターでなら、如何に短時間でお客様をさばくかが大切であるが、その点では私は日本式ではないかもしれない。午前中に受けたカナダ人の初老の夫婦に対しては2時間半もの時間がかかったし、午後に受けたニュージーランドの大学生の2人組みにも2時間近くかかってしまった。旅行の相談に乗ったところで、大した売上にはなっていない。タイやインドシナの旅行プランをどの様に立てたらよいだろうか、と言った相談であり、移動の多くはローカルバスで、宿泊はゲストハウス。K.K.トラベルとして予約をしたり、切符を売ったりできる部分は限られている。それでも、こうして旅行相談を受けされていただくことも勉強になるし、英会話の勉強にもなる。そして、私の何よりもの強みは、旅行者たちが計画を立てている各方面へ実際に行った事があるということだ。タイの旅行代理店のスタッフたちは、ほとんど研修旅行などと言ったチャンスはないし、個人的に旅行ができるほど裕福ではない。だから、ふだん販売している観光ツアーや飛行機の切符以上の情報を持ち合わせていない。これはK.K.トラベルに限られた話ではなく、チェンマイの大半の旅行代理店で、似たり寄ったりの状況にあるはずだから、これは武器になるだろう。
 が、それでも、今のところ売上にほとんど直結しない。結局カナダの夫婦に売れたのは、プーケット行きの航空券と、日帰り観光ツアーだけであったし、ニュージーランドの学生にはハノイ行きの航空券だけである。旅行業とは情報産業だと思っているが、情報だけではなかなか売上には結びつかないようだ。

 こうした相談は、K.K.トラベルの中だけに止まらず、このチェンマイ通信のメール宛にも沢山寄せられる。こちらは完全に商売とは関係ない世界だけれども、基本的にはなるべく誠意を持ってお答えしている。中には、実際にチェンマイまでいらしてお会いするケースもしばしばある。こうした相談に乗るのも嫌いではないのだが、メールと言うのは、時に寂しいときもある。かなり込み入ったことを質問されて、こちらも真剣になって返信をしたためても、その後その内容についての感想も何も寄せていただけないことが時々ある。

 夕方前に日本語でK.K.トラベルに電話がかかってきた。午前中に大阪行きの航空券を買ってくださったお客様からである。「バイクに乗っていて事故に遭った」と言うのである。「Uターン路で、前を走っていたトラックが荷崩れを起こし、積荷の机にぶつかって、バイクは壊れて、腕を強打した」らしい。チェンマイに頼れる人もいないし、思い出したのが今朝切符を買った私のことらしく、電話をかけてきてくださった。急いで現場へかけつけると、幸い怪我のほどは大したことはないようだし、バイクの方も簡単な部品交換で治りそうである。が、まだ少々気分的に高ぶっているようだで、荷崩れを起こしたトラックの運転手ともなかなか会話が成立しない。「こいつ、謝らんで、逃げようとするんや」と訴えられる。そう、タイではこの手の事故で加害者が謝ることなど稀である。加害者側に一方的に責任がある場合には、加害者が逃げようとするのが一般的である。そんな中にあって、まだこの加害者が事故現場に残っていたのは幸いというべきかもしれない。私が仲介して、加害者に謝らせ、バイクの修理代と謝罪の気持ちを併せて1000バーツを出させた。日本人の感覚から言ったら、「これっぽっちで許せるかぁ」と言った感覚だろうが、タイ人にして見たら1000バーツは大金である。ましてトラックの運転手風情にしたら、大変な金額であろう。近所の人に警察へ電話をしてもらったんだけど、と言っておられたが、それが上手く通じていなかったのかどうか判らないが、警察は結局来なくて、この1000バーツで示談成立となった。

 旧正月の前日ということもあり、K.K.トラベルの経営者は中国系で、スタッフ全員に紅包が配られた。紅包と言うのは日本で言うところの「お年玉」に相当する。私もバンコク銀行がサービスで配っていると思われる真紅の封筒をもらった。ちょっとした厚みもある。おぉ、経営者もやっと私の働きを認めてくれたか、これなら1万バーツくらいはあるかなぁと喜んだが、実際には中に入っているのは百バーツ札で、20枚入っているきりであった。まぁ妥当な線かもしれない。これは一種のボーナスだし、ボーナスは業績に影響受けるのはし方がない。まずは、感謝しておくに越したことはない。

朝食

紫米ご飯、ジャガイモ炒め、モヤシのスープ。

昼食

肉まん。

夕食

カレーライス。

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