7月15日 木曜日 天気は曇り ときどき晴れ間
このところホテルの予約がスムースに取れなくて困っている。チェンマイのホテルなら問題ないのだが、バンコクやプーケットなど、北タイ以外の地域のホテルの予約で、苦戦を強いられている。季節から言うと、この時期のタイは雨季と言うことになっていて、オフシーズンなのだが、オフなのは季節上の問題だけで、北半球からの観光客は、バカンスシーズンの為に非常に多い。そのためにホテルが満室気味である。さらに悪いことにバンコクではエイズの国際会議などが開催されているものだから、どうにも予約が入らない。K.K.トラベルのような弱小旅行代理店では、独自に一つ一つのホテルと交渉して宿泊料金を取り決めても、送客実績が少ないので、競争力のある料金提示をしてもらえない。そこで、こうした旅行代理店向けにホテルの客室仕入れを代行してくれる問屋のような業者を利用することが多いのだが、その業者を経由しても手配ができない。困った事態である。
ところが、現地でさえ仕入れがなかなかできないのに、日本の旅行会社では部屋を確保していると言う。それは、日本の大手業者は年間を通じて毎日一定数の仕入れがあるからで、このあたりからして、タイのローカルな旅行会社とはやることが違う。地元の代理店としてはただ指をくわえて見ているに過ぎない。そして、その日本の大手業者の販売価格なのだが、地元業者と比べて決して高くない。従来なら圧倒的な送客数をもって格安な仕入れをしても、日本との間の通信費や、日本の高い人件費で、販売価格は高いものになりがちだったものが、ネットによる通信技術の発達で、通信費と距離の関係は断ち切られ、日本からだろうがタイ国内からだろうが関係なくなった。むしろ通信インフラの遅れたチェンマイ-バンコク間を電話やファックスでやり取りしている方がずっとお金がかかる。そして、人件費に関しても、すでに日本の業者はコンピューターによる自動予約、自動決済で、人間の介在する範囲がほとんどなくなっている。これでは、ローカルの業者など足元にも及ばない。
夕方前に、気分転換でもしないとミスをしでかしそうだったので、業務を中断して帰宅する。そして優泰を連れ出して郊外にあるサイクリング・コースまで出かける。小鳥のピョンも連れていく。ちょうど1年前に優泰と自転車の特訓をしたコースである。去年の今ごろは毎日が日曜日で、自分や家族との時間がふんだんにあった。ところが今はまるで時間が無い。優泰の6段式ギアのサイクリング車も、長いこと埃を被ったままになっていた。完全に私生活を犠牲にした毎日を現在送っているわけだ。
サイクリングコースは自然にあふれ、散策にも最適である。私はピョンを恐る恐る籠から出して、草地の上にのせようとしたら、草地が怖いのかもがく。これでは興奮してどこか遠くへ飛んでいってしまいそうなので、慌てて私の肩の上に止まらせた。まぁ、もし自分の意思でどこかへ飛んでいきたいとピョンが感じているのなら、飛んで行ってもし方が無いかなと思っていたが、ピョンもいきなり大空へ飛んでいく勇気は無いようで、私の肩にちょこんと乗っかっている。私はピョンを驚かせないように静かにコースを歩いた。ピョンは私の首のあたりにぴったりと寄り添い、どこかへ飛んで行こうというそぶりは見えない。きっと、はじめて見る広い世界に緊張しているのだろう。ピョンは肩の上でもチー、チーと鳴く。私は小さな声でピョンに語り掛けながらゆっくりと歩いた。優泰は一周5キロのコースを既に回り終え、2周目にさしかかり、私とピョンを追いぬいていった。
1キロ半ほど歩いたところで、再びピョンを草地に下ろしてみる。私としてはピョンに草地の上で、虫でも捕食する練習をしてもらいたいと考えたのだが、ピョンはまだ練習ができるような精神状態ではなかったようで、空へ飛びあがってしまった。まぁ、鳥だから空を飛ぶのは当然だが、飛んでいるピョンの良く見ると、どうやら錯乱しているらしい。一心不乱に飛んでいる。そして、どこか着陸できるところを探しているようなのだ。それでも、葉がこんもりと茂った樹木が怖いのか、樹木を避けて飛んでいる。私は「ピョーン、オイ、ピョン」と呼びかけた。夢中で飛んでいるピョンに聞こえているのかどうかわからないが、どこかへ一直線に飛んでいくのではなく、私の回り30メートルほどのところを飛び交っている。実際には1分間くらいの時間だったのかも知れないが、私にはずいぶん長いことピョンが飛びまわっていたように感じられた。そして、その間、私はピョンを呼び続け、「これでもうピョンともお別れかぁ」とも思えて、ピョンとの思い出が次々に思い起こされた。
グルグルと飛びまわっていたピョンがやがて北の方角を目指して一直線に飛び始めて、樹木の影で私はピョンの姿を見失った。コースを外れた樹木の向こう側はバリケードがあり、進入ができなくなっている。「まったく、バカな鳥だよピョンは、、、」と思って、一応はバリケードの方へ歩いて見に行くと、鉄条網にピョンがチョコンと止まっていた。声をかけても身動き一つしない。両手で包み込むように捕まえて、私の肩に乗せると、ますます私にしがみつくように首のあたりにピッタリと寄り添ってきた。本人(鳥か)もよっぽど驚いたのだろう。約1時間ほどピョンと散策をし、アパートに戻る。ピョンは私の肩に止まっているときに糞をしたようで、背中にピョンの糞がひとつついていた。
夜、ラジオ局に入る。広報局からナーン県でのレポートを発表するようにと言われていたが、一緒にマイクに向かうジュンから、「ダメ、ダメ、もう今日の予定はすっかり詰まっているんだから、そんな時間はないの」と却下された。ジュンつまり、K.K.の経営者である。毎度マンネリ放送の元凶でもあり、カラオケオヤジ並みに、本番中はマイクを握ったまま放さず、私は同席していながら、時たま合いの手を入れる程度である。まぁイイかぁ、広報局からなんか言ってきたら事情を説明しよう。