10月12日 金曜日
きのうせっかくビートルにワックスをかけて磨き上げたのに、明け方から雨が降りだし、優泰を学校に送る時間になってもまだ止まない。そして優泰は朝の支度がとても遅く、アパートを出たのはもう7時半であった。普段なら大渋滞に巻き込まれて、遅刻をするところであった。
アパートに戻る頃には雨も上がり、台所のシンク台の縁の防水加工がしっかりせず、シンク台から水漏れして、下の棚が水浸しになるので、この補修をしようと思う。他にホウキなども買ってくるようにお母さんに言われている。ビートルで行くほどの距離でもないが、チャンプアク・バスターミナル近くの工具屋が並んでいるあたりに行く。最初は防水加工にはシリコンゴムを隙間に注入しようと思ったが、シリコンと注入器で200バーツもする。特にシリコンは標準サイズのものしかなく、シンク台の補修だけに使うにはもったいない。先日水道管を買った工具屋の女主人と何とか良いアイデアはないかと話していたら、石膏で十分ではないかと言う。タイルの目地を埋める石膏なら目も細かく、衝撃が少ない場所なら防水処理に使えるはずだと言う。石膏など小学校の図工の時間に使った記憶があるが、水の配分量など忘れてしまっており、使い方に自信がないがまずは買ってみる。1キロ入りで15バーツと価格も魅力的だ。石膏ならシンク台以外に壁の隙間などを埋めたりするにも使えて便利そうだ。
合い鍵の専門店があったのでビートルの合い鍵を作ってもらう。以前にも市場の合い鍵カウンターでビートルの合い鍵を作ろうとして、作れないと断られたことがあったが、ちゃんとした店構えの専門店なら大丈夫だろうと、キーを見せて聞いてみた。すると店の親父さんは、「キーだけでは作れない。車をここに持って来い。」と言う。しからばと、ビートルを見てもらうと鍵穴をのぞきこんでフムフムとうなずくと、早速カギを削り出し始めた。そして、何度か鍵穴に差し込んでは、また削ることを繰り返して、3度目にきちんとエンジンのかかる合い鍵をこしらえてくれた。これで50バーツであった。やはり、専門店はしっかりしていて、おまけに安いくらいだ。
バスターミナルの裏に自動車のシートを張替える小さな店があった。ちょうどビートルのカーペットが汚れていて張替えたいと思っていたところで、スーパーで安い家庭用のカーペットを買ってきて、自分で切ったり縫ったりしてこしらえようかと考えていたところだったので、「張替えるといくらかかるか」と店番をしていた愛想の良いおばさんに聞いてみた。下地のクッション加工と裾の補強をしても、スーパーでカーペットを買うのとほとんど値段が変らない。いや、むしろ若干安いかもしれない。今日の夕方までには仕上げると言う。それでは、やってもらおうとビートルを預ける。が、ビートルがないと私の足が奪われたようなもので、代車としてバイクを借りたいとお願いしたが、今店の主人が乗っていってないから、後で貸すと言う。
ビートルもなく、まだホウキも買っていないので、タニン市場へ歩いていってみた。しかし、適当なホウキがない。ワラを編んだようなホウキは沢山あるが、裾が思いっきり広がっていて、とてもホウキとしての役に立ちそうにない。何件か見て回ったが、日本で考えるようなものは見つからなかった。その代わり、市場の二階にブフェ食堂ができている事を発見。ひとり30バーツで、メニューには精進料理もある。早速昼にでもお母さんと来てみようと思う。
歩いてアパートまで戻り、お母さんにさっきのブフェ食堂に行こうと誘ったところ、同じアパートでロングステイしているO女史も誘う事になった。ビートルがないので、乗合ピックアップトラックでタニン市場へ向かう。
ここの料理のバラエティーはなかなか充実していた。ご飯は白いご飯のほかにチャーハンと玄米ご飯があった。精進料理も肉やイカなどに見せかけた手の込んだ食材をふんだんに使っているし、麺類もビーフンやカノムチーンもある。私はあれこれと食べ3皿もお代わりしてしまった。お母さんは玄米ご飯が気に入ったようだ。それとデザートにはタイ式のかき氷がある。これも私は2杯も食べてしまい、店を出るときには「あーお腹が重たい」と感じるほどであった。
お母さん達とはタニン市場で別れて、私は張替え屋へ行った。店の主人がせっせと寸法を測り、カーペットをこしらえていた。まだ、優泰を迎えに行くには30分ほど時間が早いので、張替えやの隣のやはり自動車修理屋をのぞいてみた。中には愛想の良いおばさんと、そうでないおばさんがいて、「まぁすわれよ」と言う。薄暗い店の中のイスに座って、世間話をする。大体聞かれるのはどこへ行っても同じで、「どこから来た」「タイに来てどのくらいだ」「奥さんはタイ人か」程度で、よほどタイ語の分からない人でも、この三つを覚えておけば、「タイ語がうまいねぇ」と言ってもらえる筈だ。そして、私はこの三つのフレーズよりももう少しタイ語を知っているので、私のビートルの話になり、そしてこの店の売り物の古い車を見せてくれる事になった。古い車は真っ赤なフランス車で、五十年も前のものだった。整備状況が良いとは言えないし、登録証もないので、私の手におえるものではないが、昔のフランスの車だけあって、独自のデザインはまさにエスプリというか、なんちゅうかである。ハンドルはただの円形をしたパイプのようで、チェンジレバーはダッシュボートについている。売値は5万バーツにもならない。日本なら100万円でも安いくらいだろう。ワイパーがないことや、ところどころ欠品があるが、綺麗だし、オブジェとしての価値も高そうだ。
張替屋でポンコツなスズキのモーターバイクを借りる。これで優泰を迎えに行き、アパートへ届ける。アパートではシンク台の隙間に石膏を流し込む作業をする。石膏に少量の水を加え、小麦粉を解く感じで捏ね上げ、適当な弾力が出てきたところで、手の指で石膏を隙間に押し込んだ。本当に少量の石膏だけで隙間はすっかり埋めることが出来た。後は乾くのを待つだけである。乾くのを待つ間にモーターバイクを張替屋に返しに行く。アパートの駐車場でバイクにまたがり、エンジンをかけて走り出したところ、オイルランプが点灯している。ムムム、オイル切れだ。さっきまで、点灯してなかったのに、こりゃオイル入れなくては、、と、考えながら走っていたら、さっきはなかったはずの再度ミラーがついているし、前輪のブレーキも利く。ややや、これはバイクを間違えたらしい。慌てて、駐車場に戻ると、借りてきたポンコツバイクは、ちゃんとあった。イカンイカン、他人のバイクに勝手に乗ってしまった。それにしても、なぜカギが同じだったのだろう。タマタマの偶然なのか、それともスズキのバイクはキーの形がみんな同じなのか、、、。
張替えは完了していた。しかし、まだゴム糊のシンナー臭い匂いが残っている。しばらくドアを開けて換気をしないと、車内に匂いが染み付きそうなので、ドアを開け放ち、その間にエアコンのスイッチの付け替えをする。いまはスイッチが運転席側にあり、クラッチを切るたびにヒザに使える。この問題を解消するために助手席側へスイッチを移し変えたいと考えていた。この作業をしているうちに、エアコンの効きが悪い原因の一つがなんとなく分かってきた。このビートルはエアコンのラジエーターが、フロントのボンネットにある。しかし、ボンネット自体は風穴がない構造なので、いくら電動ファンでラジエーターに風を送ろうとしも、限界があるわけだ。実際に、停車中にボンネットを開けてエアコンをかけると効きが良いのである。この丸みを帯びたボンネットに風穴を開けるのは忍びないが、この構造はエアコンにとって致命傷だ。いったい他の車はどうしているのだろう。
今晩の夕食は久しぶりに特製のお好み焼である。私の作るお好み焼は本場のお好み焼と比べると邪道ではあるが、お母さんと優泰には本場もの以上に好評である。特に今日、優泰は学校の英語の書き取りテストで万点を取ってきたから、いつもより美味しく作ってやらなくてはならない。つい何週間か前まで、英語など書いた事もなく、当然書き取りは0点だった優泰が、毎日お母さんとテスト対策に励んだ成果で、万点が取れるようになったとは、喜ばしい限りだ。
お好み焼は好評であった。小さなフライパンでピザのスモールサイズ程度のものを4枚焼いて食べた。私のお好み焼にはお餅が沢山入っていて、切ると良く粘り伸びるのである。このへんが2人に好評なポイントのようだ。
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