12月1日 土曜日
私たち家族がタイに滞在するにあたって取得しているビザは非移民査証と呼ばれるもので、1年間有効で、1年以内ならば何度でもタイに入国できるというものだ。しかし、連続して滞在できる期間は90日と制限されており、私のようにしばしば日本との間を往復しているものは関係ないが、優泰のようにタイに留まっている者は、90日以内に故意に出国しなくてはならない。そして、今月の半ばで優泰はその滞在期限が満了する。そこで、今のうちに優泰を連れ出してタイから一度出国する事とする。と言っても、陸続きの国に囲まれたタイでは、出国するのはワケはない。チェンマイで最も便利な脱出先(出国先)はビルマ国境だ。ビルマに正式に入国するにはビルマのビザが必要だし、ビルマは第三国人の陸路からの入国を認めていない建前だ。しかし、そこは少しでも外貨が欲しいビルマでは、いくつかの国境に限って国境の町を開放している。隣のチェンライ県の最北端のメーサイの町が最も有名なビルマ国境で、ここからはビルマのタチレクへ簡単に入れる。正規の入国ではないからビザも必要ない。しかし、タイから出国するのは事実なので、パスポートにはちゃんとタイ出国のスタンプが押されるし、戻ってくるときは入国のスタンプがもらえる。そのスタンプをもらいにビルマまで日帰りドライブに行くことにする。
週末の朝はウルトラマンのテレビで始まる。7時からのウルトラマンを心待ちにしていた優泰は6時半頃から何も言わずに起き出して、テレビが始まるのを待っている。普段学校へ行く日などは、6時半に起こしてもなかなか起きず「眠い、眠い」を連発しているのに、、。
朝食には玉子とポテトサラダでサンドウィッチを作って食べる。ゆでたジャガイモをスリコギでつぶしたら良い具合のポテトサラダができた。優泰も気に入ったようで良く食べてくれる。
朝食後メールを開くとウイルス付のメールがどっさり届いている。受信し仮開封しただけでも感染するようで、対応に苦慮する。それに発信人に心当たりのない人が多いし、まったく困ったものだ。それに私も感染している可能性もあるし、保菌者になれば知らないうちにウイルスを撒き散らしている可能性もある。
メールの処理で時間を食い、またビートルにPCとCD-ROMをセットし、移動中でも優泰がウルトラマンのDVDを見れるようにしてやる。優泰は昨日買ったDVDの続きが見たくてし方が無いようだ。そんなこんなで結局アパートを出発できたのは、10時になってからである。途中のコピー屋でパスポートのコピーを3部取る。
メーサイまでの往路はファン街道を北上することにする。距離的には遠回りになるが、途中の景色が気に入っている。特にチェンダーオからファンにかけての石灰質の山々は中国の桂林がのどかな農村に出現したような印象を与えてくれる。チークの大木は明るい森を見せてくれるし、ファンから先はビルマ国境沿いに東へ向かい、ビルマのシャン高原と同様にスコットランドの丘を連想させる緑の丘陵地帯となる。
ファンの町の手前で昼になる。ビートルを道端のクオッティオうどん屋に止めて昼食にする。タイのラーメンであるバミーはなく、すべて米の麺であるクオッティオだけである。にもかかわらず優泰はラーメンが良いと言うので、店のおばさんに相談すると即席麺があるという。そう言えばクオッティオうどん屋のメニューに即席麺があって、しばしば即席麺の方が値段が高かったような記憶がある。私は店で即席麺など食べた事がないので、なぜ生麺より即席麺が高くなるのか疑問であった。そして、今日そのなぞが解けた。即席麺の粉末スープは使わずに、麺だけを使い、クオッティオうどんのスープをかけると言ったものであった。しかし、正直なところ、油で揚げた即席麺は淡白なクオッティオのスープとは馴染まないようで、ならば粉末スープで食べれば良かったと後悔するような味であった。そう、日本で言えばラーメンを昆布ダシの利いたうどん汁で食べている感じである。優泰には麺は食べなくても言いから野菜とお肉だけでも拾って食べるように言う。
やはりファン街道経由は距離が長い。メーサイまで300キロ近くの走行となった。メーサイの入国管理所に辿り着いたのは午後3時になっていた。ここでパスポートへ出国印をもらう。そして国境へ。小さな川にかかる橋が国境で、沢山の人が行き交っている。端の両側で櫓を組み巨大なコンクリート製の楼門のようなのを作っていた。ビルマ側に入ってビルマの入国管理所にパスポートを預け、入園料(入国料か)を米国ドルで5ドル払う。まぁ入園料程度は見て回るかと橋周辺の国境市場に首を突っ込む。中国から入って来る衣類や玩具、電化製品がタイ人向けにどっさり売られている。十何年か前に来たときは、国境市場は閑散としており、タイ側の町と比べてものすごく暗く貧しい印象であったが、いまではビルマ側のほうが賑やかなくらいになっている。
なるほどタイ人が買出しに来るというだけあって、安いものが多い。中国製の冬物衣料が売れ筋のようだし、タイのCD(DVD)のコピーが格安で販売されている。タイも欧米のコピー天国だが、ここではタイのコピー天国のようだ。安いものは20バーツ以下で売られている。優泰にウルトラマンのDVDを3枚100バーツで買ってやる。また、先日から我が家のハサミがなくなって不自由していたので、ハサミも15バーツで購入。そして、掘り出し物と感じたのが蛍光灯式の電球。チェンマイではひとつで300バーツ程するものが、たったの35バーツで売られている。パッケージにはドイツ製とかかれていたが、そんな事はないだろう。蛍光灯式と書かれていても、ひっとして「ただの電球だった」ってことだって十分に考えられる。
市場の中を歩いていると、首から籠を下げて品物を売り歩く輩がやたらうるさくつきまとう。そして、何を考えているのか、エロDVDを盛んに売りつけようとする。こっちが5歳の子供を連れているなどお構い無しだ。しかし、良く見ていると、タイ人はそうしたエロものを結構買っている。タイではポルノがないから、売れ筋商品なのだろう。最後に正規(?)の免税店に立ち寄る。前回来た時にシンハの缶ビールが安く売られており、後になってあの時もっと買っておけばと後悔したので、今回は1ダースくらい買い込むつもりで乗りこんだ。しかし、シンハビールはなかった。あったのはシンガポールのタイガービールだけである。それも1本25バーツ。高くはないが、買いたくはない。売り子にシンハはないかと聞いたら「ない」とのこと。残念。ならばビルマ観光旅行の記念にとビルマのビールはないかと聞くと「冷蔵庫にある」と言う。どうやら免税店の商品ではなく、コーラや飲料水と同じ扱いを受けているようだ。ビールと言えば十何年か前に、これは空路で首都ラングーンに正規入国した時であったが、ビルマにはマンダレービールと言うビールがただ1種類しかなかった。気の抜けたようなビールで美味しくはなかったが、国営のホテルやレストランなどでしか飲めず、政府が一方的に定めた公定レート換算のドル払い扱いだったので、とてつもなく高いビールであった。そして、数年前にはチェントウンと言うビルマ奥地の村でラングーンビールなるものを町の中国風食堂で飲んだ。1本飲めば十分と言った味であったが、中国から入って来るビールも出まわっていた。味はどちらもゲップばかりが出そうなビールであった。今回お目にかかったのはミャンマービールと言う缶ビールであった。1本20バーツ。さて、いったいどんな味がするだろうかは、アパートに帰ってからのお楽しみ。
再びタイ側に戻り、国境の町を後にしたのは5時になっていた。日は西に大きく傾き、チェンライの街に入るとすっかり暗くなっていた。ガソリンを補給し、海賊版のウルトラマンを放映しながらチェンマイへの山道を走る。真っ暗な山道にヘッドライトだけがたよりだが、PCのスクリーンではウルトラマンが怪獣と戦っている。本来暗いはずの車内にスペシウム光線が飛び交い、窓ガラスに反射したりして、運転の邪魔になってきた。切りの良いところで車内上映会は終了とする。それにデコボコのある山道で、ビートルがバウンドするたびに、CD-ROMは読み取りエラーを吐き、PCの復旧のために停車を余儀なくされる。上映会を終えて、優泰には後部座席で寝てもらう事にする。まだチェンマイまで150キロある。チェンマイに着くのは9時半頃になりそうだ。
国境から走る事4時間半。距離にして260キロを走りぬけて、予定通り9時半ジャストにアパートに辿り着く。優泰は熟睡中であったが起きてもらい。遅くなったがコカへ行ってタイスキの夕食とする。どうやら最後の客となったようで、優泰がアイスクリームを食べ終わる頃には、客は私と優泰だけになっていた。今日は本当に良く走った。550キロ。東京から大阪へ行くくらいの距離だろうか、、。
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